野上記念 法政大学能楽研究所編 能楽資料叢書1 大蔵虎清間・風流伝書 田口和夫 校訂 目次  凡例‥三 『大蔵虎清間・風流伝書』‥五  間狂言目録‥七  風流目録‥一五  風流本文‥一六  間狂言本文‥二七  奥書‥一六六  解題‥一七〇 付録一『しきさんばんあいきやうげん』‥一八七  解題‥一九三 付録二『狂言印可勘状』‥一九七  解題‥二〇三 付録三『大蔵虎清狂言伝書』‥二一一  解題‥二二〇  索引‥二三二   曲名 人名・神仏名  凡例 一、本冊は、能楽資料叢書の中の一冊として刊行するものである。 一、本冊には、寛永十六年大蔵虎清奥書、通称『大蔵虎清間・風流伝書』(法政大学鴻山文庫蔵)を収める。付録として、同じ寛永年間の大蔵虎清伝書である寛永九年大蔵虎清奥書、『しきさんばんあいきやうげん』(鴻山文庫蔵)を収め、併せて、関屋俊彦校訂、寛永八年大蔵虎清奥書『狂言印可勘状』(大蔵弥右衛門家蔵)、小田幸子校訂、寛永十九年大蔵虎清奥書『大蔵虎清狂言伝書』(山本東次郎家蔵)の二点を転載する。 一、『しきさんばんあいきやうげん』・『狂言印可勘状』・『大蔵虎清狂言伝書』の凡例・解題はそれぞれの部分に置いた。 一、1、『狂言印可勘状』については、『能と狂言』(創刊号、平15・4)に写真と原本通りの翻刻を載せる。本書では修正を加えている。関屋俊彦『続狂言史の研究』にも補記を加えて収めているので参照されたい。   2、『大蔵虎清狂言伝書』については『芸能の科学』(30、平15・3)に翻刻本文とともに、読みやすく校訂した本文を載せているので参照されたい。 一、『大蔵虎清間・風流伝書』については、底本を忠実に翻刻することを原則としたが、通読の便宜を考慮し、左の方針に従った。 1、漢字と仮名の別、仮名遣い、送り仮名は底本通りとした。 2、漢字の異体字や旧字体は、原則として通行の字体や新字体に改めた。ただし、「嶋」「躰」など若干の異体字は底本のままとした。 3、変体仮名は普通の平仮名に改めた。また、多用される「ハ・ミ・ニ」も平仮名とした。 4、濁点・半濁点を補った。底本に濁点があるものには左傍線を付した。ただし、目録ならびに『しきさんばん あいきやうげん』に限り、濁点があるのが常態なので、例外として原表記のままとした。 5、補記は断らず本文中に収めた。『大蔵虎清間・風流伝書』には「ヒ」によるミセケチが二個所あるが、それは右に傍記した。 6 問題があると校訂者が判断した部分に、ママと傍記した。その他の校訂者の注記は()で囲って示した。 法政大学鴻山文庫蔵 『大蔵虎清間・風流伝書』 寛永十六年大蔵弥右衛門虎清奥書「間之出立脇付事書・不流之出立」 (間狂言・目録) 一 たかさご 二 くれは 三 おいまつ 四 ゆみやわた 五 みもすそ 六 よしの 七 しらひげ 八 とうばうさく 九 やたてがも 十 なにわ 十一 はくらくてん 十二 やうらう 十三 さほやま 十四 しが 十五 あらしやま 十六 はうじやうがわ 十七 うのは 十八 うらしま 十九 せいわうぼ 廿 ひむろ 廿一 はこざき 廿二 たまのい 廿三 あわぢ 廿四 つるかめ 廿五 うこん 廿六 だうみやうじ 廿七 ゑん(ママ)ま 廿八 げんたゆふ 廿九 きんさつ 三十 ゑのしま 三十一 大やしろ 三十二 ちくぶしま 三十三 大はんにや 三十四 いわふね 三十五 うのまつり 三十六 ねざめ 三十七 めかり 三十八 まつのを 三十九 くわうてい 四十 ふしみ 四十一 くさなぎ 四十二 あつた 四十三 くせのと 四十四 かすい 四十五 りんざう 四十六 かねひら 四十七 じどう 四十八 あつもり 四十九 みちもり 五十 たゝ(ママ)のり 五十一 ゑびら 五十二 さねもり 五十三 ともなが 五十四 かすがりうじん 五十五 やしま 五十六 たむら 五十七 よりまさ 五十八 はしひめ 五十九 たまかづら 六十 いづゝ 六十一 ばせう 六十二 みわ 六十三 かなわ 六十四 百まん 六十五 三いでら 六十六 ていか 六十七 だうし(ママ)やうじ 六十八 まつかぜ 六十九 やうきひ 七十 せうき 七十一 かふう 七十二 花月 七十三 あいそめがわ 七十四 じねんこじ 七十五 とうゑい 七十六 あしかり 七十七 ぬゑ 七十八 うねめ 七十九 しゆんゑい 八十 せつしやうせき 八十一 てんこ 八十二 七きおち 八十三 こそて(ママ)そが 八十四 おばすて 八十五 馬こいざゝき 八十六 うつせみ 八十七 はつゆき 八十八 はしとみゆふがほ 八十九 せいぐわんじ 九十 しゆんぜいたゞのり 九十一 ひうん 九十二 だいろくてん 九十三 とくさ 九十四 たけのゆき 九十五 ほとけのはら 九十六 ふしきそが 九十七 せみまる 九十八 きよしげ 九十九 あいじゆ 百 とりをい 百一 きそのぐわんじゆ 百二 だんふう 百三 一かくせんにん 百四 むつら 百五 なわすゞき 百六 おきのいん 百七 よろぼうし 百八 よこやま 百九 ろうやぶり 百十 ふなべんけい 百十一 たけふ(ママ)ん 百十二 うとふ 百十三 くず 百十四 あたか 百十五 かんやうきう 百十六 はちのき 百十七 こがう 百十八 いけにへ 百十九 六代つぼね入 百廿 くらまてんぐ 百廿一 はしべんけい 百廿二 ふじた(ママ)いこ 百廿三 うげつ 百廿四 もとめづか 百廿五 あさがほ 百廿六 ゆふがほ 百廿七 とうぼく 百廿八 あふひの上 百廿九 せ(ママ)がい 百卅 くまさか 百卅一 らしやうもん 百卅二 うきふね 百卅三 やまうば 百卅四 にわとりだつた 百卅五 せつたい 百卅六 とうがんこじ 百卅七 ひがき 百卅八 ゆぎやうやなぎ 百卅九 むめがへ 百四十 しゆてんどうじ 百四十一 をみなへし 百四十二 はんぢよ 百四十三 かねもと 百四十四 さいぎやうざくら 百四十五 かんたん 百四十六 おちば 百四十七 りんざう 百四十八 こてう 百四十九 にしきど 百五十 たんごものぐるい 百五十一 ほうかぞう 百五十二 みいでらなきふどう 百五十三 ふなばし 百五十四 かづらき 百五十五 うかい 百五十六 のもり 百五十七 もりひさ 百五十八 たつた 百五十九 もちづき 百六十 ろうた(ママ)いこ 百六十一 まつむし 百六十二 にしきゞ 百六十三 のゝみや 百六十四 よしのしづか 百六十五 げんぶくそが 百六十六 しやり 百六十七 大ゑ 百六十八 あこぎ 百六十九 さ井 百七十 たいぼく 百七十一 おはらごかう 百七十二 しゆんくわん 百七十三 しやうぞん 百七十四 じどう 百七十五 ひたちおび 百七十六 うんりんゐん 百七十七 くろづか 百七十八 とをる 百七十九 ぬれぎぬ 百八十 ぜんじそが 百八十一 大ぶつくやう 百八十二 ゑぐち 百八十三 ちやうりやう 百八十四 もみぢがり 百八十五 くるまぞう 百八十六 おしほ 百八十七 あま 百八十八 たへま 百八十九 ふじと 百九十 がうま 百九十一 つちぐるま 百九十二 つちぐも 百九十三 ふしきそが 百九十四 しやつきよう 百九十五 かたな 百九十六 みうり 百九十七 みなせ 百九十八 おかざき 百九十九 あくげんだ 弐百 そらばら 弐百一 ひつじ 弐百二 げんざいぬへ 弐百三 ようちそが 弐百四 かづらきてんぐ 弐百五 たなばた 弐百六 たましま川 弐百七 こもり 弐百八 のぐちはうぐわん 弐百九 たうせん 弐百十 つねまさ 弐百十一 いかりかづき 弐百十二 ひばりやま 弐百十三 らいでん 弐百十四 け(ママ)んじやう 弐百十五 こかぢ 弐百十六 こかわぢ 弐百十七 げんじやう三蔵 弐百十八 さねかた 弐百十九 ひろもと 弐百廿 たてを 弐百廿一 しのぶ 弐百廿二 ゆきよりともおち 弐百廿三 くらま (風流・目録) 一 つるかめのふりう 二 三面のふりう 三 びしやもんのふりう 四 びわたちばなのふりう 五 しやうれうちのふりう 六 もちのふりう 七 大こくのふりう 八 ちゝのぜうのふりう 九 せんにんのふりう 十 つるのはやしのふりう 十一 さいのかみのふりう 十二 によいほうしゆのふりう 十三 ありのふりう 十四 おがの松のふりう 十五 橘一人のふりう (風流・本文) 一 一 つるかめふ(ママ)りう 是は千歳ふるのふりう也 一 是は千歳舞おさむると、ふへひしぎて、一せいをうち出す也。その一せいにて、かめさきへ、つる跡也 一 かめの出立、下にあついたをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。かしらには、かめをつくりて、杉木のわをして、かめをのせてきる也。面はけんとく、くろきうすたれをかけて、かめをかしらにきる也。扇はすへひろがりを持て出也。 一 つるの出立、下には白きこそでをきて、大くちをきる。はつぴをこしおびにてきる。面はのぼりひげ、白きたれをかけて、つるの作物をして、ひの木のわをわげさせ、それにつるを落ぬやうにしてきる也。扇はすへひろがりをもちて出也。後、きりのうたいに太鼓もうつ也。 一 二 三面のふりう 是はさんばさう、もみのだん過て、一せいにて、三人つれだちて出る也。さんばさうのふりうといふ。 一 しやうぎ先、次碁、次すご六也。 一 将碁の出たち、しやうぎのばんを作りいたゞきて、下にはあついたをきて、きやうげんばかまのすそをくゝり、はつぴをこしおびにてきる。これもたれをかけて、面はびしやもんの面也。ごの出たちもすご六の出たちも同前也。さりがな((なが))らはつぴのいろかへてきる也。ごの面はのぼりひげ也。すご六の面はゑびすの面也。扇は三人ながら、すへひろがり也。三人ながら、たれをかくる。白きにてもくろきにても、くるしからず。しやうぎのばんも、ごのばんも、すご六のばんも作りて、あしを付て、まんなかにわをして、いたゞく也。さりながら羽((す))五六にはあしあるまじく候。 一 きりのうたひに太鼓もうつ也。何もはやしむかしよりうちきたり申候也。 一 しやうぎの面はうそふき也。 一 三 びしやもんのふりう 是もさんば三のふりう。 一 びしやもんの出たち、下にあついたをきて、かるさんをきる。上にはつぴをこしおびにてきる。面てはびしやもんの面也。ほこを持て、扇をこしにさして、一せいにて出也。 一 ありのみの出立、下にあついたをきる。狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。面はうそふき、かしらにはありのみの作物を、かんざしの下のごとくにわをして、ありのみの作物をいたゞひて、すへひろがりをもちて、一せいにて出也。 一 せいわうぼの出立、下にははくの小そでに、かるさんをきて、まいぎぬをこしおびにてきる。面はゑびすの面也。かしらにはもゝのつくりものを、ありのみのごとく、さ((わ))をして作物のもゝをすへていたゞく也。扇はすへひろがり也。一せいにて出る。 一 三人ながらたれをかけて出也。 一 びしやもんのかしらには、たうかぶりのはねを取つてきる也。 一 はやしは一人づゝ一せいにて、三人ながら出る也。 一 きりのうたいにはたいこをも打也。 一 四 びわたちばなのふりう 三番三のふりう。 一 出所、もみのだんを過て、一せいにて出る也。 一 びわの出立、下にあついたをきる。きなる狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。びわの作物をして、いたゞくだいをわげてびわをすへて、たれをかけてきる也。面はうそふき、すへひろがりをもちて、一せいにて出る也。 一 たちばなの出立、びわの出立と同前也。さりながら、そでなしはき色よし。面はのぼりひげ也。たれをかけて、たちばなをすゆるだいをわげて、たちばなを作りてだいにすへて、いたゞく也。すへひろがりをもちて、出処はびわをあいしらいて、わきざになをして、こゑにて云かけにて出也。 一 てんじんの出たち、下にきいろか白きあついたをきて、大口をきて、かりぎぬをきる也。面ははなひきをきる。かしらは、たれをかけて、かぶりをきる也。すへひろがりをもちて、一勢((声))にて出る也。さんばさるがくとてんじんは、すゞのだんをあいまい也。びわたちばな二人は、わきざの方にてうつりまい也。 一 びわの作物は、すゞにびわのはを付ていたゞく。則其すゞをさんばさるがくへわたす也。たちばなの作物はてんじんへ渡す也。 一 三人の内、二人は一せいにて出る。一人は云かけにて出る也。きりのうたいに、たいこをもかならず打也。 一 五 しやうれうちのふりう 千歳のふりう也。 一 しやうれうちの出立、下にあついたをきる。かるさんをきて、はつぴをこしおびにて。面はびしやもんの面也。かしらにはたれをかけて、すきかぶりのはねをとつてきる也。扇をこしにさし、右にけんをもち、左にきやうをもつて、一せいにて出る也。きりのうたいに、たいこもかならず打也。 一 此ふりうの出所は、せんざいふるまい納むると、一せいを打せて出る也。此ふりう過るまで、おきなはたゝず待てゐる也。此ふりうはしやうれうち一人也。 一 六 もちのふりう 三番三のふりう也。 一 せんにんどもの出たち、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。扇をこしにさし、かしらにはもうせん頭巾すき頭巾などをきて、うすの作物をして、まん中をゆふやうにこしらへて、其まん中をいふたるはしにて、うすをきね二本にて、二人してかいて出る。三人はうすの跡にきねをかたげて、以上五人同じ出立に出立て、一せいにて出る也。 一 もちのせいの出たち、下に白き物をきて、き成狂言ばかまのすそをくゝり、こしおびをして、上に白ききる物うちかけてきて、つまをこしにはさみ、すへひろがりをもつて、かしらにはづきんを白きわたにてつゝみきて、うすの中に入て出る也。 一 うすのこしらへやう、二つにわるやうにして、まん中をいふたる所を、はやくとくるやうに、わる所は上面の方をわるやうに、ひらきよきやうに、こしらゆる也。きりのうたい、かならずたいこ打也。 一 七 だいこくのふりう 三番三のふりう也。もみのだん過て、一せいをうたする也。 一 だいこくの出たち、下にあついたをきて、かるさんをきて、上(うへ)によきあついたをうちかけて、つまをこしにはさみ、うわざしのつゝみに、ふつくりとものを入て、左のかたにうちかけて、つちを右の手にもちて、扇をこしにさし、一せいにて出る也。 一 ねずみの出たち、きやうげんばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。面はうそふき也。かしらはとがりたるもうせんづきんさ((也))。扇をもちて、一せいにて出る也。 一 だいこくの面ては則だいこくの面也。下にこしおびする也。きりのうたいにたいこを打也。 一 八 ちゝのぜうのふりう 三番三のふりう也。もみだん過て、ちゝのぜうの子出る也。 一 ちゝのぜうの子の出たち、ゑぼし上下也。 一 ちゝのぜうの出たち、下にあついたをきて、狂言ばかまの前を取り、こしおびをして、上にもあついたをうちかけて、つまをこしにはさみ、ゑびすの面をきて、なしうちゑぼしを前の方を折てきる。すゑひろがりをもちて、子によび出されて出る也。 一 と石の出たち、下にあさぎのものをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、はつぴをこしおびにてきる。面ははなひきの面也。かしらはもうせんづきん也。すへひろがりをもちて、一せいにて出る也。則石の作物をして、其中にはい入りて○、してばしらのもとにて、一せいを石の中にてうたふ也。石出時、中にて石をもちて、こうけんのもの壱人わきよりかゝへさせて、してばしらのきわにて、こうけんするものはないてのく也。石はわるやうにこしらへて、わりめを中にてもちてゐて、わる時くわつとひらくやうにする也。 一 八やしやの出たち、下に白きものをきて、大口をきて、はつぴをこしおびにてきる。面はびしやもんの面をきる。かしらにはすきかぶりのはねを取つてきる。扇をこしにさし、ほこをもちて、一せいにて出る也。きりのうたいにたいこを打也。 一 九 せんにんのふりう 三番三のふりう もみのだん過て、三人一せいにて出也。 一 せんにんの出たち、下にあついたをきて、大口をきて、はつぴをこしおびにてきる。三人ながら同じ出たち也。乍去はつぴの色、三人の三色に替へて、面は壱人はうそふき、壱人はのぼりひげ、壱人ははなひき也。かしらは壱人はなしうちを前へ折てきる。壱人は赤きしやう〳〵ひのうへゝ長きをきる。壱人はねずみ色のもうせんづきんをきる也。すへひろがりを三人ながら持て、三人つれだち一勢((声))にて出る也。さきへここうと云せんにん、次にひちやうばうと云せんにん、跡壱人ははうそせんにん也。きりのうたいに、たいこ打也。きりの前のわかを上る時と、まいのうちは大つゞみと小つゞみとふへ計也。まいはつねのまいのふへ也。きりの時、たいこ打也。 一 十 つるのはやし せんざいふるのふりう也。せんざい過て、はやしはさがりは也。 一 つるの出たち、つるのくびをながく作りて、かしらにいたゞき、くろきたれをかけて、面はけんとく也。身にはかるさんをきて、はつぴをきる也。扇こしにさす。ゆがけをさす也。 一 ひちやうばうの出たち、大口をきて、はつぴをこしおびにてきる。面はゑびすの面、かしらには熊坂頭巾をきる。すへひろがりを持て、つるに乗りて、跡にねのびの子共をつれて、さがりはにて出る也。 一 ねのびの子共の出たち、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。かしらにはたれをかけて、小松の根のあるをだいをしていたゞいて出る。同じくは子どもをすめんにて出す。子どもなくは面をきて出る也。面はうそふき、おうぢ也。ひちやうばうの跡に付て、さがりはにて出る也。 一 はやしはさがりは、たいこも打也。後きりのうたひにも太鼓打也。 一 出所は千歳経る過ると、さがりはに成也。 一 十一 さいのかみのはやし せんざいふるのふりう也。 一 さいの出立、狂言ばかまのすそをくゝり、はつぴをこしおびにてきる。面はけんとく、くろきたれをかけ、さいの角を一本、大きにして、かしらにいたゞき、扇をこしにさし、さいのかみの女を乗て、一勢い(ママ)にて出る也。 一 さいのかみふうふの出立、男神はかるさんをきて、はつぴをこしおびにてきる。面はびしやもんの面、かしらはすきかぶりのはねを取りて、たれをかけてきる也。すへひろがりをもちて出る。女神は下にぬいはくをきて、大口をきて、まいぎぬかちやうけんをきる。かしらはたれをかけて、面はふくれをきる。大じんゑぼしを前を折てきる。すへひろがりをもちて、さいに乗りて、一せいにて先へ出る。跡は男神也。きりのうたいに太鼓をも打也。 一 十二 によいほうしゆ 三番神のふりう 一 によいほうしゆの出たち、下にかるさんをきて、はつぴをこしおびにてきる。面はゑびすの面也。かしらはだいをして、しやりの能にしやりにする玉すへていたゞき、たれをかけて、すへひろがりをもち、一せいにて出る也。 一 しやきん袋の出立,によいほうしゆと同前の出立也。乍去いしやうの色をかへてよし。いかにも見事成うはざしのつゝみに、中へふつくりと物を入て、さがりのひぼを上へむすび、是もゑびすのやうすのかはりたる面をきる。たれをもかへる也。すゑひろがりをもちて、一せいにて出也。後のきりのうたいのはやし、たいこも打也。面はのぼりひげにてもよし。 一 十三 ありのふりう 三番神のふりう也。 一 ありの出たち、狂言ばかまのすそをくゝり、どひやううつぼをありのしりに付け、くろきそでなしをこしおびにてきる。竹にて長くひげを作りて、くろうそめて、おとがいの下より出し、けんとくをきて、ちいさきくろきしやぐまをきて、一せいにてはうて出る也。きりのうたいの時、あいまいにはにじりまいにする也。 一 あなしの明神の出たち、大口をきて、はつぴをこしおびにてきる。面はゑびすの面也。かしらにはくろきたれをかけて、かざ折ゑぼしをきて、すへひろがりをもちて、一せいにて出る也。きりのうたいのはやしにも、たいこも打也。 一 十四 おがの松のふりう 千歳経るのふりう也。 一 ねのびの松の出たち、大口をきて、はつぴをこしおびにてきる。かしらにはくろきたれをかけて、かんざしのつきをのけて、其下のかんざしに、ちいさき松,根ながらおきていたゞき、たれをかける。面はのぼりひげ也。すゑひろがりを持て、一せいにて出る也。後きりのうたいのはやしにも太鼓を打也。 一 出処は千歳ふる過て、そのまゝ一せいに成、何も千歳経のふりうの出所同前也。ふりうの有間はおきなの太夫は待てゐる也。むかしよりの左方((作法))也。はやしも太鼓ともにはやす大法也。 一 たちばな一人のせんざいのふりう。 一 橘の出たち、びわたちばなのふりうの橘の出たちと同前出立也。 (間狂言・本文) 一 一 高砂 播磨の国高砂浦の能 一 わきは九州肥後の国、あそのみやの神主也。みやこへ一見のために下る次手に高砂の明神へ参る。出立は大臣の出たちなり。されども禁中の大臣より下也。 一 間を云者の出たち、おりゑぼしに上下也。 一 能は今春の能也。 一 間云者の出たち、おりゑぼしに上下よりほかは是なし。わきよりつれ大臣をもつてよび出す也。 一 二 呉羽 津の国くれはの里の能。 一 わきは当君のしんか也。住吉へ立願有、参次手にくれはの里へ参詣也。 一 間の出たち、おりゑぼし上下也。二日めにくれは有ば、まつしやにもする也。 一 まつしやの出たち、狂言ばかまをくゝり、水衣をこしおびにて着る。面はのぼりひげ、かしらはもうせんずきんにても、よのまるずきんでもくるしからず。 一 能は今春の能也。わきよりつれ大臣をもつてよび出す也。 一 まつしやの時はらんじやう也。後、打とめず。 一 三 老松 九州だざい案((安))楽寺の能。 一 わき都のにし梅津のなにがし也。大臣の出立なり。禁中の大臣よりはしたなり。北野のてんじんをしんがう有により、霊夢をかうむり、あんらくじへ参詣也。 一 間云いでたち、おりゑぼしに上下なり。此間はをいまつ、こうばいどのゝしんは,北のゝまつしやなる故に、間をまつしやにする事なし。そのしさいは、まつしやのまつしやはならぬ事なり。わきよりつれ大臣をよ(ママ)び出す也。 一 能は今春の能也。 一 四 弓八幡 山城八幡の能。 一 わきは後宇多院のしんか、せんじをかうむり、八幡の初卯の御神事見て参れとのちよくぢやうにより、八幡に下向也。 一 間の出立、折ゑぼしに上下なり。まつしやにする時は狂言ばかまをくゝり、水衣をこしおびにてきる。ずきんはもうせんずきんなりとも、よのずきん成ともよし。すみずきんはきぬもの也。面はのぼりひげ也。一まつしやの時は、たいこらんじやう也。後を打とめず。 一 能は今春の能也。 一 五 みもすそ いせの国ふたみの浦の能。 一 わき当君のしんか、大神宮へ参詣の次手に、ふた見のうら石のかゞみへ御参り也。 一 間の出立、おりゑぼしにかみしも也。しぜんまつしやに仕る時は、まつしやの出立、弓八幡のまつしやと同前也。まつしやの時の、 一 たいこのうちやう、らいじやうといふ。とめをうちとむるなり。 一 能は宝生の能といふ。 一 六 吉野 大和よしのゝ能。 一 わき、きのつらゆき、わざとよしのへ此春参詣也。 一 間の出立、折ゑぼしに上下なり。まつしやにはせぬものなり。かたり間也。 一 能は今春の能也。 一 七 白髮((髭)) あふみの国の能。 一 わき当君のしんか、きみふしぎの御れいむ有により、せんじにて、しらひげの明神へ参詣也。 一 間の出たち、のふりきなり。狂言ばかまをくゝり、水衣をこしおびにてきる。かしらには白きがうしぼうしなり。 一 たいこらいじやうにて出る。大(ママ)鼓の後、打とめず。のふりき出て云立をいふ。間に小舟をまくのさきへ、つきいださせておく。云立云て、舟をとりいで、してばしらの本にて、其ふねに乗。其舟をもちて出るも、ふねに乗てからも、くでん有り。さてふねの中にて、くわんじんひじりとうどゐるを見て、しだいをうち出す。だうしや其次第にて出る。 一 だうしやの出たち、狂言ばかまのすそをくゝり、どうぶくにて出る。かしらは常の地かみなり。 一 能は今春の能也。 一 鮒のでは、笛ははたらき。 一 ふなの出たち、あついたをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。面はけんとくなり。くろきたれをかけて、ふなをたれの上にかづく。扇はもたぬものなり。 一 末社にてする時は常の末社の出立也。 一 八 東方朔 からの能。 一 わき、ていわうなり。 一 間の云立するものゝ出たち、あついたをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、袖なしをこしおびにてきる。かしらにはもうせんずきんかすきずきんか、いづれもながきずきんよし。扇はまくぎわより手にもちて出て、云たて云て、太鼓うちの本にゐる。其時は扇をこしにさす也。してとのあいしらいこれあり。 一 中入、間云せんにんの出たち、間の頭取の出立は、あついたをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、水ごろもをこしおびにてきる。かしらにはもうせんずきんなり。其頭巾の上にしぶがみにて、もゝのさねなりに長して、きりのうたいの内にとる也。面はのぼりひげなり。 一 中入の間のあどのいでたち、二人か三人程、まへのあいしらいするものゝ出たちのごとく也。面はうそふき、けんとく、三人も出候はゞ、一人はおうじの面にてもくるしからず。 一 能は今春の能也。 一 たいこ、中入の間にせんにん出る時、らんじやうなり。 一 九 矢立賀茂 山城都かもの能。 一 わきばんしうむろの明神のしんしよくの人也。むろの明神とかもの明神は同一躰成故参詣也。 一 間の出たち、神主にいでたつ、あついたかふるきぬい(ヒヒヒ)はくの小袖か、何もだて成ものをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、水ごろもをこしおびにてきる。かしらは大臣ゑぼしをまへゝ折てきる。もし勧進能などには、だて成かるさん、だて成水衣着てもよし。人数なき時は、末社にする也。末社の出立はいづれも同じごとく也。 一 田うへにする時、女の出たち、下には古きはくの小袖、古きぬいはく着てよし。上には地白のかたびら、いづれも女かたびらのだて成を着て、其上に女おびをして、いづれもびなんぼうしなり。 一 能は。 一 太鼓、神主出る時、らんじやうなり。又、女共出る時、さがりはにて出る。其うたひの時も、田をうゆる時もたいこ打也。 一 十 難波 津の国のなにわのうらの能。 一 わき当君のしんか、御熊野へ参籠して、次手なにわのうらへ御出でなり。 一 間は末社なり。かたり間にはせぬもの也。末社の出たち、弓八幡の末社と同前也。則作物のたいこをもちて出、して柱のむかうのきわに、笛吹のかみの方へむけておき、ぶたひの上面へ出、かたるなり。 一 たいこはらんじやうなり。 一 能は。 一 十一 白楽天 つくし肥前の国、松浦がおきの能。 一 わき、たうの太子のひんかく、はくらくてん也。 一 間の出たち、末社なり。末社の出立、弓八幡の末社と同前也。本ぼんする時は、弓をもち、矢を一つはこしにさし、一つは手にもつ也。きりのうたひの時、も(わかふし)のゝふのやそうじ河のながれまで、みなもときよし弓張の月。弓をもちて出る時の和か是なり。きりのうたひは白楽てんの間のきりのうたひなり。 一 たいこらいじやうなり。いづれもの末社のきりのうたいにもたいこ打也。 一 能は今春の能也。 一 十二 養老 み濃の国のもとすの郡養老のたきにての能。 一 わき、時の大臣、をいをやしなふいづみの出るにより、ちよくしにて養老のたきへ御出でなり。 一 間の出たち、常の地かみにて、白き作りひげを懸る。白がなくは、かすをなる作りひげにてもかけて、かしらにはかます頭巾を、くろきをかぶつて、狂言ばかまの前をとり、へんとつをきて、扇をぬいて持出る也。 一 太鼓はらんじやうなり。是もきりのうたいの時もたいこ打也。 一 能は。 一 十三 佐保山 大和の能。 一 わき、ふじ原のとし家、春日はうぢ神成により、此春、君に御いとまを申て、御参詣也。わきのしてより、間の云てをよび出す也。 一 間の出立、折ゑぼしにかみ下なり。末社にはならぬ間なり。つれ大臣をもつてよび出すなり。 一 十四 志賀 あふみの国志賀郡の能。 一 わき、時の当ぎんにつかへ御申あるしんか、君に御いとま申、しがへ花見に御出也。 一 間の出たち、折ゑぼしにかみしもなり。つれ大臣をもつて間をよび出す也。末社にはならぬ間也。自然末社にするならば、山のかみといふ也。末社ならば, 一 太鼓らんじやうなり。山の神の出立、末社のごとくなり。 一 能は。 一 十五 嵐山 山城の国西山あらし山の能。 一 わき、時のたうぎんのしんか、あらし山の花盛を見て参とのせんじをかうむり、よ(ママ)し野へ御下向なり。 一 間、末社、つねのごとくのまつしやの出たち也。 一 太鼓、らいじやうなり。 一 さるにてする時は、頭巾もけがわ、身にもけがわのじゆばんかるさん也。其けがわの上にじやくはい成かみしも着て、こゆいゑぼしなり。扇はすへひろがり也。 一 しうとざるの出たち、け頭巾に折ゑぼし、身にはあついたのふるきをきて、ぢみなるかみしもをきる也。みにけがわはきず。扇はすへひろがり也。 一 太鼓はさるにてすれば、しうとの出る時、らんじやうなり。 一 さるにてする時むこざるのでは一せい也。 一 供のさるのうちにさしだるをかたし、一方にはわらづとして、一荷にになわせもたせて、ともに出る也。 一 しうとのともざる壱人、むこのともざる、たるもちともに三人也。何もともざるはつねのさるの出たち也。 一 能は今春の能也。 一 十六 放生川 山城八幡にての能。 一 ひたちの国かしまのしんしよくつくばのなにがし、都の寺社をも一見して、八幡のはうじやうゑのまつり事を一見のため、八幡ゑまいられ候なり。 一 間の出立、折ゑぼしにかみ下なり。つれ大臣をもつてよび出す也。かたり間よし。 一 末社にするならば、八まん宮につかへ申まつしやといふ也。末社の出たち常の末社のごとくなり。 一 たいこはまつ社ならばらんじやう也。 一 能は今春の能也。 一 十七 鵜羽 日向の国の能。 一 わき、時の当今の臣下、九州うどの岩やを見て参れとのせんじをかうむり、うどの岩屋へ参詣也。 一 間の出たち、折ゑぼしにかみ下なり。つれ大臣をもつてよびいだす。かたり間也。 一 まつしやにする時は、うどのいわやのかど守の神といふ也。 一 太鼓、末社にするならば、らんじやう也。 一 能は今春の能也。 一 十八 浦嶋 丹後の国うらしまにての能。 一 わき、時の当今の臣下也。浦しまの明神、霊神成よしきこしめされ、見て参れとのせんじをかうむり、うらしまへ御下向也。 一 間の出立、折ゑぼしにかみ下也。つれ大臣をもつてよびいだすなり。 一 末社にする時は、常のまつしやの出立なり。うら嶋の明神の門守の神と云也。 一 たいこ、末社の時は、らんじやうなり。 一 能は今春の能也。 一 十九 西王母 からの能。 一 わき、時の帝王にかまひなし。 一 間の出立、狂言ばかまのすそをくゝり、袖なしをこしおびにて着る。かしらにはもうせん頭巾かすき頭巾かを着て、すめん也。云立を云て、たいこうちのきわにゐて、中入の間もいふなり。もし云立を云て、其ものはひつこみ、中入の間云者べちのものならば, 一 たいこ、らんじやうにて出る也。 一 能は。 一 廿 氷室 丹波の国ひむろ山の能。 一 わき、亀山のゐんの臣下、たんごの国くせの戸へ御参にて、かへるさにひむろ山へ御出で也。 一 間の出立、神ぬしなり。きやうげんばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにてきる。だいじんゑぼしの前をおつてきる。扇はまくの内よりもちて出る也。 一 たいこは、らんじやうにて出る也。 一 間に弐人出る、二人の内、壱人はまくのうちに、おなじ出立にいで立て、まくの内に待也。さきへ出たるもの、わきとせりふ有て、よびいだす時、まくのうちに待たるもの出也。うちに待たる壱人は、扇をこしにさして出る也。 一 能は。 一 廿一 箱崎 ちくぜんの能。 一 わき、ゑんぎのせいしゆつかへ御申有、みぶのたゞみね、はこざきへ御参のため、わざと御下向也。 一 間のいでたち、折ゑぼしにかみ下也。つれ大臣をもつてよびいだすなり。まつ社にはならぬ間也。 一 能は。 一 廿二 玉ノ井 竜宮の能。 一 わき、ぢじん四代の御神ひこほゝでみの御子となり。間にかまいなし。 一 間はかいさうのせい、いたらがいなり。出たち、きやうげんばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにて着る。かいさうのせいよび出す時、四人出る。四人の中に、はまぐりのせいは、ふるきぬいはくなりとも、はく成共着て、おびはひらぐけのおびをむすびさぐるなり。かづらをかけて、うしろにてゆい、面はふくれ也。いたらがいのせいは、面てうそふき成り。のこる三人は、水ごろもなりとも袖なしとも着る。袖なしをきるならば、前計こしおびにてきて、うしろははなすもの也。のこる三人の面は、けんとく、おふぢ也。 一 たいこはらんじやうにて出る也。 一 能は観世の能也。 一 廿三 淡路 あはぢの国の能。 一 わき、時の当今の臣下也。住吉玉津嶋へ御参有て、神代の古跡を御おがみ可有ため、あわぢへ参詣也。 一 間の出たち、折ゑぼしに上下也。つれ大臣をもつてよび出す也。末社には成ぬ間也。 一 能は今春の能也。 一 廿四 鶴亀 からの能。 一 間のいでたち、くわんにん也。狂言ばかまのすそをくゝり、下着はふるきあついた、上には袖なしの前計をこしおびにてきる。うしろははなすなり。扇をもちてがく屋より出でゝ、云たてをいふなり。たいこもはやしもなし。云たてばかり也。 一 わきは時の帝王なり。 一 能は観世の能也。 一 廿五 右近 山城みやこうこんの馬場の能。 一 わき、ひたちの国かしまの神職つくばの何がし、都に上り、次手にうこんの馬場の桜を一見也。 一 間、北野の社人也。出立、是は狂言ばかまの前を取り、水衣をこしおびにて着る。大臣ゑぼしを前へおりて着る也。扇はまくの内よりもちて出る。つくばの何がしの前ゑ出る時、扇をこしに指也。 一 たいこはらんじやうにて出る也。 一 能は観世の能也。 一 廿六 道明寺 河内の国はじ寺の能。 一 わきはさがみの国たしろ寺の住僧、そんじやうといふ僧也。 一 間は末社也。出たちはまつしやのごとく也。面はのぼりひげ也。 一 たいこはらんじやうにて出也。 一 能は。 一 廿七 絵馬 伊勢の国の能。 一 わきはおほいの御門の右大臣かうのぶ(ママ)と申御かた也。君大神宮をしんじたまひ、数のたから物をもちて、御参詣也。さいくうに御付ありて。 一 間、鬼どもなり。をにの出たち、下着にあついたか、あついたなくはのしめ成とも着て、狂言ばかまの前を取、袖なしをうしろをはなして、こし帯にて前計きこむなり。かしらはをくそ頭巾、面てはぶあく。そでなしなくは、狂言ばかまにてもくるしからず。さりながら頭取は袖なしきてよし。三人か五人か、おなじをにの出立、一やう,うちでのこづちのゑを、三尺ほどながくして、かたげて出る。小袖をつぼをりてもよし。 一 たいこも笛も、さがりはにて出る也。 一 能は。 一 廿八 源太夫 尾わりのあつたにての能。 一 わき、時の当今の臣下、あつたの明神霊神成よし、君きこしめし、参詣あれとのせんじを蒙り、あつたに御下向也。 一 間は末社。何もまつしやの出立同じごとくなり。難波の間のごとく、太鼓おもちて出る。たいこの置ところも、なにわのたいこのおき所と同じ所也。 一 太鼓はらいじやう也。間もらいじやうにて出也。作物も難波のごとくの作物也。 一 能は今春の能。 一 廿九 金札 山城ふし見の能。 一 わき、くわんむてんわうの臣下、ふしみの里に大宮作りあるべきとのせんじを蒙り、伏見の里に御下向也。 一 間の出立、神主のごとく、これは狂言ばかまの前をとり、水衣をこしおびにて着る。かしらは大臣ゑぼしを前ゑおりて着る。扇はまくのうちよりもちて出る。此間を神主にてする事、大むかしのふし見の翁のしそん也。自然のつとうおまいらせんがため也。わけをしらぬもの神主をふしんせば、ふし見の翁のしそんと申さんがため書付也。 一 たいこはらんじやうにて出る也。 一 能は今春の能也。 一 卅 江野島 さがみの国ゑのしまにての能。 一 わき、きんめいてんわうの臣下、江の嶋ゆじゆつして、天女あらわれたまふにより、見て参れとのせんじを蒙り、ゑのしまへ御下向也。 一 間の出立、しらひげのごとくののふりき也。ふねはもちていでず。云たて計を云て、後にだうしやとも云事あり。 一 間のだうしやの出たち、是もしらひげの間のだうしやの出たちと同前也。 一 間のうのとりの出たち、したぎにあついたおきて、狂言ばかまのすそをくゝり、はつぴおこしおびにて着る。かしらにはくろきたれをかけて、うの鳥を作り、かしらにかづく也。面はうそふき也。 一 たいこ、らんじやうにて出也。 一 だうしやと云事過て、卯のとりの出る時、ふしぎやおきのかたよりも〳〵、これよりたいこあり。まのあたり成きどく哉と云所、たいこうちきり、一ひやうしにて、だうしやはまとりにおどろきてとうたう也。 一 能は観世の能也。 一 卅一 大社 出雲の国大社にての能 一 わき、時の当今の臣下、大社神あり月の御神事に参詣也。 一 間、はじめに出る間は、おりゑぼしにかみ下也。 一 間、よびいだされて出るものは、神ぬしの出立なり。金札の間の神主と同じ出たち也。いちどのを神ぬしがよび出也。 一 いちどのと云は、みこの事也。 一 みこの出たち、ふるきぬいはく也とも、はくなりともきて、ひらぐけのおびをむすびさげて、すへひろがりをもちて出る。すゞをばたもとに入て出る也。 一 かぐらの時、笛をいしがみのかぐらのごとく吹て、後おどりふへにてとまる也。 一 能は。 一 卅二 竹生嶋 あふみの国竹生嶋にての能。 一 わき、ゑんぎのせいしゆの臣下也。竹生嶋霊神なれば、君に御いとまを申、御参詣也。 一 間の出たち、のふりきなり。しらひげの間ののふりきの出たちと同前也。 一 たいこは、らんじやうにて間出也。岩飛の時もたいこあり。 一 能は。 一 卅三 大般若 てんぢくりうさ川にての能。 一 わき、だいたうれいがんじの住僧、三蔵法師也。渡天したまひ、大はんにやのめうぢくを、しんだんにわたさんため也。 一 間の出たち、きやうげんばかまのすそをくくり、袖なしをこしおびにて前ばかりしこみ、うしろをはなして着る。かしらはもうせん頭巾、面はうそふきなり。扇をもちて出る。 一 たいこはらんじやうにて出る也。 一 能は。 一 卅四 岩舟 津の国住吉うらにての能。 一 わき、時の当今の臣下、せつしうつもりのうらに、たからの市をたて、こまもろこしのたから、かいとれとのせんじを蒙り、御下向也。 一 間の出たち、おりゑぼしにかみ下也。つれ大じんをもつてよびいだす也。 一 末社にせば、いづれもの末社の出たち也。 一 たいこ、まつしやにする時は、らいじやうにて出る。末社成ればすみよしの明神の末社と云也。 一 能は今春の能也。 一 卅五 鵜祭 のとの国の能。 一 わき、のとの国けたの明神、霊神成故、霜月初うの御神事のぎしき、時の当今のしんか、見て参れとのせんじを蒙り、御下向也。 一 間の出たち、末社也。いづれものまつしやの出でたちなり。 一 たいこ、らんじやうにて出る也。 一 能は今春の能也。 一 卅六 寝覚 信のの国ねざめのとこにての能。 一 わき、ゑんぎのせいしゆの臣下也。ねざめのとこの翁のじゆみやうながき薬の事、君ふしぎの御つげあるにより、見て参れとのせんじを蒙り、ねざめのとこに御下向也。 一 間は山の神也。出たちは、狂言ばかまのすそをくゝり、袖なしをこしおびにてきる。もうせん頭巾おかづき、面はうそふきなり。扇をもちて出也。 一 たいこ、らんじやうにて出る也。 一 能は。 一 卅七 和布刈 長門の国とようらの郡り、はやともの明神にての能。 一 わき、はやともの明神の神主也。 一 間ははやともの浦のかいさうのせい也。出立、きやうげんばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにて着る。かしらはもうせん頭巾、面はうそ吹也。扇をもちて出也。 一 たいこはらんじやうにて出也。 一 能は。 一 卅八 松尾 山城松尾にての能。 一 わき、時の当今の臣下也。松尾の明神、霊神成により、君に御暇申御参詣也。 一 間は末社也。まつしやの出たち、何もの間のまつしやの間の出たち也。扇をもちて出る也。 一 たいこはらんじやうにて出る也。 一 かたり間にせば、おりゑぼしにかみしも也。乍去、此間は末社にしてよし。 一 能は。 一 卅九 皇帝 からの能。 一 わき、げんそうくわうてい也。 一 間は云立。出たちは下にあついたをきて、きやうげんばかまのすそをくゝり、袖なしを後をはなし、前計こしおびにて着る。もうせん頭巾か、すき頭巾かをきて、扇をもちて出る也。たいこもはやしもなし。云立計也。 一 能は。 一 四十 伏見 山城ふし見にての能。 一 わき、藤原のとしいゑ、春日大明神へ御参詣有て下向に、ふし見の宮へ参詣也。 一 間はおりゑぼしにかみしもなり。 一 末社にせば、門守の神といふ也。出たちは、常の末社の出たちに、面はうそふきをきる也。同はかたり間よし。 一 たいこはまつしやならば、らんじやうにて出る也。 一 能は。 一 四十一 草薙 尾わりの国あつたにての能。 一 わき、ひえい山のゑしんのそうづ、あつたに参、一七日の間、参籠して、さいせうわうきやうをかうじ奉る也。 一 間は社人也。社人の出たち、きやうげんばかまの前をとり、水衣をこしおびにてきる。大じんゑぼしを前へ折て着る。扇を持て出る也。 一 太鼓はらんじやうにて出る也。 一 かたり間にせば、折ゑぼしに上下也。太こなし。 一 末社にせば、何もの間のまつしやの出立也。たいこらんじやうにて出也。 一 能は。 一 四十二 熱田 尾はりの国あつたにての能。 一 間は末社。いづれもの間の末社のごとく出立也。面はのぼりひげなり。 一 たいこはらいじやうにて出る也。 一 能は。 一 四十三 九世戸 丹後国九せとにての能。 一 わき、時の当今のしんか、神代よりの事をきゝおよびたまい、御参詣也。 一 間、門守の神也。出たちはいづれもまつしやのごとくなり。面はうそふきなり。大しやうもんじゆの門守の神といふ也。 一 たいこ、らんじやうにて出る也。 一 能は観世の能也。 一 四十四 河水 からの能。 一 わき、帝王の臣下、ひでりに付て、大河の川上へ御出也。 一 間の出たち、官人なり。くわうていの云立のくわんにんの出たちと同じごとく也。扇をこしにさし、わきのしての臣下とともをして出て、たいこうちのゐるわきに待てゐる。龍女がくやへ入て、わきのしんかよび出す也。 一 中入の間、五人ほど、末社の神のごとく出立、かしらには、こいふななまずを作りて、かぶりて出る。此はやしは, 一 たいこつゞみふへにて、はやし物はさがりはなり。前のくわんにんのいでたちの、あいしらいするものは、能はつるまで、たいこ打のわきにゐて、能はて,わきの跡につれだちてゐる也。 一 能は。 一 四十五 輪蔵 山城北野にての能。 一 わき、九州ちくぜんの国さいふより出たる僧也。仏法執((修))行のこゝろざしあさからずして、初て都へのぼりたる僧也。間をよび出す也。 一 間の出たち、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着る。あふぎはこしにさす也。 一 中入の間、壱人出てなのる。此出立、きやうげんばかまの前をとり、つぎすわうをこしおびにて着る。扇はこしに指。なのりてまちてゐる。がく屋より出る時、三尺計のつゑに、ちやせんをちいさきつとをして、それに三つ計さいて、三尺のつえにつとをさし、かたげてなのり、ふへふきの上になをりて待也。 一 跡から三人程、さきへ出る一人のもちたるちやせんのごとく作りて、三人。 一 たいこつゞみふへ、さがりはにて三人のもの出也。 一 能は観世の能也。 一 四十六 兼平 あふみの国あわずにての能。 一 わき、しなのゝ国木曽の山家より出たる僧、木そどのゝ跡をとむらわんために、のぼりたる僧也。 一 間の出たち、狂言ばかまの前を取、かたぎぬをこし帯にて着る。扇はこしに指、間より出る也。 一 能に作物のふね出れば、太夫中入にかいをすててはいる。其作物を其まゝおき、してのすてたるかいを、我前におき、してまくへ入たらば、其かいをかたげて立て云、わきともんだい過て、とうど居かたる時、かいを右におき、かたりすまして立時、其かいをもつて立、舟へ乗りて、ふねをがくやゑもつてはいる也。舟のなをしやう口伝あり。 一 能は。 一 四十七 知章 津の国兵痛((庫))うらにての能。 一 わき、つくしがたより出たる僧、宮古へこゝろざしのぼる時、ともあきらのゆうれい相て、とむらうてとをる也。 一 間の出立、かねひらの間のいでたちと同前也。間より立也。 一 能は今春の能也。 一 四十八 敦盛 津の国須磨の浦、明石とすまのうらとの間にての能。 一 わき、武蔵の国の住人くまがへの二郎なをざねなり。あつもりを手にかけてうちたる故に、出家してれんしやう法師と名を付、執行して、又津の国須磨のうらへ来り、あつもりのゆうれいに相て、とぶらうてとをる也。 一 間の出立、ともあきらの間同前の出たち也。いづれもしゆらの間。扇はこしに指也。是も間を云ものより立也。 一 観世の能也。 一 四十九 通盛 あわの国なるとにての能。 一 わき、諸国の僧、阿波の国なる戸にて、一ゲを送りたまひし僧也。 一 間の出たち、あつもりの間を云ものゝ出立と同前成。これも間より出也。 一 今春の能也。 一 五十 忠則 津の国須磨のうらにての能。 一 わき、都より西国へくだる僧、とし成のうちの者也。もとゆいきり、執行に西国へくだる時、若木の桜の本にて、たゞのりのゆうれひに、とぶらうて通なり。 一 間の出たち、みちもりの間の出立と同前の出たち也。間云ものより立也。 一 能は今春の能也。 一 五十一 箙 津の国すまのうらにての能。 一 わき、つくしがたより出たる僧、はじめて此春思ひたち、都へのぼる僧也。 一 間の出たち、たゞのりの間を云ものゝ出たちと同前の出たち也。 一 此間ははじめ梅の((の名))をわきよりとうなり。中入より後の間も,梅の名をおしへたるもの云也。此間も間を云者より立也。 一 能は今春の能也。 一 五十二 実盛 加賀の国しのわらにての能。 一 わき、遊行十四代の上人也。 一 間の出たち、ゑびらの間云ものゝ出立と同前の出たち也。 一 間云者のはじめの云立は、わきとつれだちて出て、わきするものしやうぎにこしをかくると立て、云立を云なり。中入の間も、云立云たるもの,中入すぎて、間云ものより立也。 一 能は。 一 五十三 朝長 みのゝ国あふはかにての能。 一 わき、都のにし清冷((涼))寺より出たる僧也。はじめはとも長のめのとの何がしなり。ともながの御とぶらいのために、あふはかへ来る也。 一 間の出たち、さねもりの間を云ものゝ出たちと同前のいでたち也。 一 はじめわきよりともながのむしよを尋る時、出ておしへて、たいこうちの居わきに居て、中入に、しての女、いかにたれか有とよび出す時、御前に候と云て出て、(シテ)旅人のわたり候。罷出てみやづかい仕り候へ。(間)畏て候とこたへて、してまくゑ入て、間云ものより立也。はじめのむしよをおした((へた))るもの、後の間もいふ。ぬしかわりていふ事なし。 一 能は今春の能也。 一 せんぼうのある時は、間ながく入申候故、わきのしてに、都大くずれのいくさのおこりを、いかやうなるしさいぞ、このこんぼんをさだめて御ぞんじなきことは御座有まじひ、後の代のものがたりに仕度候間、かたつて御きかせ候へと所望する。わきのして、ぞんぜぬと申さば、いや御ぞんじなきことは候まじひ、さいぜんうけたまはるは、とも長の御めのとの何がしどのにて候が、いまほどは都の西、嵯峨のゝあたりに御すみなされ候が、とも長の御とぶらひのため、御出家なされ御出のよし、被仰候間、そとかたつて御きかせ候へと所望する。乍去、後のせりふになのらずは,左様には申まじく候也。おそうはいづかたの御かたぞとたづね候て、右の通なのりたらば、右のごとくことはりを云て、所望する。又いづかたの御かたぞとたづね候時、都へんのものとばかり申ば、宮古へんの御かたならば、大くずれのいくさのこんぼんを、都辺の御かたならば、かたつて御きかせ候へとばかり所望する也。 一 わきのしては朝長の御めのとのなにがし也。二三ケねんいぜん御暇たまはり、都の西、嵯峨のあたりに住しが、源氏のゆかりは出家の身をも、平家清盛、あらためつよくいたされ候へども、しのびて出家に成て、とも長の御とぶらひのために、この大はかへ来る也。 一 たとひせんぼう有とも、くもかみのひやうしの長き大しようのうちの間ならば、わきに所望せずとも、くるしかるまじく候。 一 こんのひようし、たけのみぢかき四てうのうちの間ならば、たいていの間によし。四てうの内の間にて、自然みぢかく、太夫のこしらへならざるあいだ、間を長くと所望せば、その時わきのしてに所望可有候。 一 よしともうたれたまふは、平治二年正月三日に尾り((はり))の国のまのうつみにて、おさだのしやうじ四郎たゞむねが湯戸のにて、うちてをこしらへうちたる成。よしともの御とし卅八也。 一 よしとものちやくし悪源太よしひらは、あふみの国石山にて、御年十九にていけどられたまひ、六でう河原にてちうし申され候。 一 朝長は御年十六にて、平治元年十二月廿七日の夜のあけぼのに、よしともの御てにかけ、こゝろ も((もと))を三刀さし、御首うち、むくろとさしあわせておかれ候へども、能には御はらきられたると作り候なり。 一 よしとも大はかを御出の時は、平治元年十二月廿八日の夜也。 一 尾りの国野間のうつみへ御出の時、御ともには、かまたひやうへまさきよ、しぶ屋こんわうまる、わしのすのげんくわう、御とも三人也。げんくわうといふは、大はかのしゆくの長者おとゝ、ふるやまほうし也。 一 より((し))とも極月廿八日の夜、あふはかを御出被成て、長者跡の座敷を見奉ば、御ざしきにとも長の御しがいに御小袖引かけておかれ候を、長者うらの藪のうちに土中にこめておかれ候を、ゑいりやく元年二月九日に、平家おはりのかみ家人弥平兵衛宗清が、あたらしきつかをみつけほりいだして、長者にたづね候へば、ありのまゝに朝長の御しがいと申を、よろこび御首計もたせてのぼる時、あふみの国関が原にて頼朝を見付け、いけどり都へぐしてのぼる也。 一 頼朝、よしともにおくれたまふは、極月廿七日に、よし(ママ)主従八人に成て、落たまふ時、其夜あふみの国森山よりおくれたまへる也。御年十三也。 一 平治二年正月十日かいげんありて、ゑいりやく元年に被成候也。 一 大くずれの御合戦は、のぶよりしんぜいとたがひにいをあらそひ、信賴公むほんをたくみ、よしともをたのみ、ゐんの御所三条どのへおしよせられしは、平治元年十二月九日の事也。しんぜいは平家宗盛公兼て被懸御目候。三条どのやぶれ、しんぜいはうじたわらへおちて行、山をほらせてそれへはいり、たけのつゝを土中より出し、いきのかよひをいたされ候へ共、のぶより湯そこ水のそこまでも尋て、土あなをほりて引ずり出し候へば、やう〳〵息の通ふものを、都へ引のぼせて、首をうたれたると也。 一 其比平家の宗(ママ)盛は一門をともない、くまのまふでなされ候を、右の九日の合戦の事、けわしく飛脚をたてゝ、みやこへのぼせ候へども、信賴よしとも御くらいの大里にしゆごして御入候間、国々より御くらいお守候故に、宗盛いきりをたてられ候へ共、宗盛の一もん計にて、およびもなく候処に、のぶよりは御内かたを守りてゐられ候べかしが、日夜女房衆との酒もりにてくらし候故、平家がたよりはかり事をもつて、大りをぬすみとつて六はらへ行幸なし奉り候故、諸侍こと〳〵く御くらいへ付奉り、大裡には信賴よしともの御一類い計にて候故、よしとも悪源太の御手柄、鬼神のやうに候へども、味かた是なき故、うち御まけ被成たると也。のぶよりは平家の大将重盛の多勢いをもつておしよせられ、ときのこゑに驚きてこしぬけ、馬にもゑのらず。やう〳〵馬にかきのせ、わきよりかゝへてあるく躰なり。一たん大りを落候へども、やがていけどられ申也。 一 能は((スリケシ))金春。 一 五十四 春日龍神 大和奈良のみやこ南都かすが山にての能。 一 わき、とがのおのみやうゑ上人也。此みやうへ上人は、あたご山のひがしはらに、とがのをといふ寺の住僧也。 一 間は末社仕る事、第一ほん也。殊金春りうにはまつしやにて仕候。末社の出たちは常のまつしやの出たちよりよくいでたちてよし。 一 たいこはらいじやうにて出る也。此末社の間はあふぎをこしにさし、つえをついて出る也。 一 此間をさるにてする事、これも今春りう也。さるの出たち、狂言ばかまをくゝり、水衣をこしおびにてきる。かしらはけずきん。面はさるの面て也。扇をこしにさし、これもつえつゐて出也。 一 たいこはさるにてする時はらんじやう也。 一 此間をくわんぜりうにはおとこにてする也。そのおとこの出たち、狂言ばかまの前をとり、こしおびをして、へんとつをきて、大作りひげをかけて、ずきんをかぶりて扇をもちて出、みやうへ上人の御前へ出る時は、頭巾をとりて扇をこしにさして出る也。 一 此間、又くわんぜりう社人にてする事、もつともよし。其社人の出たち、狂言ばかまの前をとり、あさぎの水衣をか、たゞしきなる水衣をこしおびにてきてよし。これにも大作りひげをかけて、大じんゑぼしを前へおりてきて、扇をもちて出て、みやうへ上人の御前へ出る時、扇をこしにさして出てよし。 一 おとこにてする時のづきんは、くろきかますづきん也。おとこにてする時へんとつをきる事、むかしよりちうこうまで、町人のおとこも、かすがへ参時も又寺中へ出る時も、はかまをきて、へんとつをきて出申候故、殊に間に出る時はへんとつをきる也。 一 たいこは、社人にてする時も、さるにてする時もらんじやう也。まつしやにてする時は、たいこらいじやう也。 一 能は今春の能也。 一 五十五 八嶋 さぬきの国八嶋のうらにての能。 一 わき、都がたより出たる僧、四国に下り、八嶋のうらを一見する也。 一 間の出立、朝長の間を云ものゝ間の出立と同前のいでたちなり。間より立也。 一 わきより、なすの与市扇をいたる所、所望する事あり。それは所定申也。口伝これあり。 一 能は今春の能也。 一 五十六 田村 山城都東山清水にての能。 一 わき、西国方より出たる僧、都へのぼり、清水を一見する也。 一 間の出たち、八嶋の間を云たる者の出たちと同前の出たち也。間云ものより出る也。むかしは此間云もの、上につぎすわうをきて間をいふ也。その子細わ目出度御前の能には,定て二番目にたむら有故也。 一 能は四座ともにもちいる能也。右に云ごとく、めでたき祝言の能には、かならず二番にする能也。 一 五十七 頼政 山城宇治にての能。 一 わき、諸国一見の僧、はじめてう治の里一見也。 一 間の出たち、たむらの間を云たるものゝいでたちと同前の出たち也。間云ものより立也。 一 能は観世の能也。 一 五十八 橋姫 山城宇治の橋のつめの能。 一 わき、みやこがたより出たる僧、宇治の里を一見の僧也。 一 この間はわきよりよび出す也。 一 間の出たちはよりまさの間を云たるものゝ出たちと同前也。 一 能は 一 五十九 玉葛 大和はせにての能。 一 わき、都がたより出たる僧、南都一見して、それよりはつせまふで也。 一 間の出たち、はしひめ云たるものゝ出たちと同前の出たち也。これは間云ものより立也。 一 能は観世の能也。 一 六十 井筒 大和の国在原寺にての能。 一 わき、一所不住の僧、南都よりはつせへ参、次手に此ありわらでらへ立寄也。 一 間の出たちは、玉かづらの間を云たるものゝ出たちと同前のいでたち也。間を云ものより出る也。又わきより尋事もあり。 一 能は。 一 六十一 芭蕉 からのせうすいと云寺にての能。 一 わき、もろこしそこくのかたわら、せうすいと云所に山居する僧也。 一 間のいでたち、いづゝの間を云たる物の出たちと同前の出でたち也。是は間をいふものよりかならず出る間也。 一 能は観世今春の能也。 一 六十二 三輪 大和の国三わにての能。 一 わきも和州三輪の山かげに山居し給ゑる、げんぴんそうずと申僧也。 一 間の出たち、ばせをの間を云たるものゝ出たちと同前のいでたち也。此間も間いふものかならず立間也。 一 能は今春の能也。 一 六十三 鉄輪 山城の国都辺の能。 一 わきはせいめいなり。あいしらいと云事なし。 一 間の出たちは社人なり。狂言ばかまの前をとり、水衣をこしおびにてきる。かしらは大じんゑぼしを前へ折てきる也。はやしなしにまくのうちより扇をもちて出、云立云て、たいこ打のゐるきわに待てゐて、太夫女出て、間より言葉をかけて、御つげの通り云てひつこみ、太夫がくやへ入時、跡よりあいしらいいふたるものも、がくやへはいる也。あいしらいのもの、がくやへ入てから、立役せいめいをよび出也。 一 能は観世の能也。 一 六十四 百万 山城嵯峨の寺にての能。 一 わき、都のもの、さがの大念仏へおさなき人を同道して参人、男わきなり。 一 間の出たちは三わの間云たるものゝ出たちと同前のいでたち也。是はかならずわきよりあいしらいをよび出す也。 一 能は今春の能也。 一 六十五 三井寺 あふみの国三いでらにての能。 一 わき、あふみの国三ゐ寺の住僧。八月十五夜の月見に、おな((さな))き人を同道して、かうだうの庭に出る也。 一 間ははじめしてとあいしらい、清水にていふ也。出たちは百まんのあいしらいを云たるものゝ出たちと同前の出たちなり。 一 後のあいしらいは、わきとつれだちて出る。のふりきの出たち也。のふりきはいづれもののふりきのいでたちと同前也。 一 能は今春の能也。 一 六十六 定家 山城都千本のあたりの能。 一 わき、北国がたより出たる僧、上り僧也。 一 間の出たち、狂言ばかまの前を取り、かたぎぬをこしおびにて着る。扇はこしにさして、間よりかならず立間也。後にかたる時、あふぎをぬいて持也。 一 能は観世の能也。 一 六十七 道成寺 紀の国道成寺にての能。 一 わき、紀州だうじやうじの住僧なり。 一 間の出たち、きやうげんばかまのすそくゝり、水衣をこしおびにて着る。かしらはしろきぬのゝがうしぼうしをかづくなり。今壱人もおなじのふりきの出たち也。弐人のうち壱人はわきとつれだちて出る。壱人はまくぎわにまつ。わきに、かねをしゆらうゑあげよと云つけられて、かしこまつたとうけて、がくやへかねをとりに行、まくぎわにて弐人してかねをもちて、まくあげさせて出る也。かねをあげすまして、かねをほめて、はじめ出たる者、わきのしてにかねをあげたるといふ。壱人はたいこうちのきわにゐる。はじめ出たるもの、してのあいしらいを云て、それもたいこ打のゐるきわにゐる。扨中入の時、かねの落たる時、きもをつぶし、はじめ出たるものは、ぶたひさきへこけて行、後の壱人ははしがゝりのはうへこけてゆき、はじめ出たるものにことばをかけて、せんさくをして、のちに出たるものひつこむ。はじめ出たるもの、わきにかねが落たるとつげ申也。 一 はじめわきとつれだちて出たるのふりき、かねをあげすまし、あげたるよしをわきのしてに云てから、なをる所は本ぼんはふへふきの上、わきのしてつれ僧の下になをりてゐて、太夫とあいしらひの時、それより出て、太夫とあいしらいしてから、たいこうちのわきへひつこうでゐて、間の時わき上面の方へうろたへて出る也。 一 きやうげんばかまのすそをくゝる事、うろたへてころびまわるによつて、すそを見せぬため、すそをくゝる也。 一 此だうじやうじは能のうちの一なるによつて、一もんじの能といふ。その故にわきのしても太夫もあいしらいも、一言もわたくしこれなきやうに仕るが上手といふ也。 一 かねい(ママ)の入はひとしほ今春りう大事に仕候。其落をきいて間云やうもさだまり申候也。 一 能は今春の能に一入賞翫の能也。その故はくわんぜ太夫ぜ阿み、今春大夫ぜんちくむこ成によつて、たがひに大事をとりかはし、其時ぜんちくよりぜ阿みへのほうびにだうじやうじをそうでん申され候を、むかしはりちぎにて、今春の家の一もんじの能を、いかにそうでんなればとて、おなじやうに仕る事みやうがなきとて、かねのつりやうのやうすをもかへ、らんびやうしもかたびやうしに仕られ、いまに至て其通りなり。 一 其じだいに能のあいしらいのやうすのくらい、きやうげんのくらい、相定られ、そのぢだいの名人衆御談合にて、くらい〳〵をさだめおかれ、日々のてうしをさだめおかれ、あいしらいもきやうげんも、おかしくそさうに仕り候へば、能までもあさまになり候事もつたいなきとて、いづれものくらい定おかれ候。その御談合の人々は 観世ぜ阿み 金春ぜんちく 同ぜんぽう 同四良次良 金春源七郎 観世座の万五郎、此ら衆のひそかによりあい御談合実正也。 一 道成寺の能には、ならいの大事様々ありといへども、とりわき目付見とめ三びやうしといふ大事これあり。殊にかねの入はもつとも大事なり。 一 きやうげんは能より先にこれあり。しかれども右の地((時))代にくらい〳〵をさだめおかれたるその仕やう、せんぞん(ママ)金春四郎次郎殿、ひとしほあらためおかれたるくらいを、代々いまに至てねんを入仕り来候間、これよりいらいもあさまにならぬやうに、代々可仕事かんよう也。 一 六十八 松風 津の国ひやうごうらにての能。 一 わき、諸国一見の僧、西国下り、須磨明石付。 一 間の出たち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をこしにさして出也。わきのしてよりよび出也。はじめのあいしらいにて候間、わきとつれだちて出てよし。 一 能は今春の能也。 一 六十九 楊貴妃 尾わりの国熱田にての能。 一 わき、たうのはうじといへるせんにん也。 一 間の出たち、まつ風あいしらいする出たちと同前の出たち也。扇もこしにさす也。わきのしてよりよび出也。初のあいしらいなれば、わきのしてとつれだちて出てよし。 一 能は。 一 七十 鍾馗 からの能。 一 わき、もろこししうなんざんに住居する人也。ていとにそうもんする事ありて、望(ママ)ていとにおもむく人也。 一 間の出たち、やうきひの間を云ものゝ出立と同前の出たち也。たゞし狂言ばかまのすそをくゝりてもよし。是は一入間云ものより出てよし。 一 能は金春の能也。 一 七十一 項羽 からの能。 一 わき、もろこしうがふの野べの草かりなり。 一 間の出たち、やうきひの間云ものゝ出立と同前の出たち也。是は大夫ふねを出してするならば、ふねをとりこまずにそのまゝおき、太夫まくへ入てから太夫のもちたるかいをかたげて出る。仕事はかねひらの間と同前也。ふねの作物なしに能いたされ候はゞ、扇をこしにさしながらそのまゝ出也。 一 能は金春の能也。 一 七十二 花月 山城都のひがし山清水にての能。 一 わき、つくし彦山の麓のもの、子こくうにうしなひ、出家して諸国を子を尋にありき、都へのぼり、清水に参、所のものをよび出す也。 一 間しらいの出たち、やうきひをするものゝ出たちと同前の出立也。わきによび出されあいしらひて、太夫間よりよび出し、太夫とのあいしらいあり。太夫出てあいしらいて、くせまい過て、わきのして、ちゝの左衞門よ見わすれたるかと太夫にいふ。太夫久敷相申さぬちゝに相てうれしさは候といふ時、ちゝにむかつてあいしらい有り。 一 能は金春の能也。 一 七十三 愛染川 ちくぜん国さいふにての能。 一 わき、ちくぜんの国さいふの神主也。 一 間、神主の女房也。出たち、ぬいはくかはくの着物を着て、ひらぐけのおびをむすびさげて、おゝいかづらをかけて、うしろの首すぢにてゆい、かづらおびはかけぬなり。し(ママ)ためん也。すへひろがりをもちてまくぎはに待てゐて、わきの小役をする左近の丞といふもの、宿をかしたる女の手より文をとりてたつ時、まくをあげさせて出て、してばしらよりはしがかゝりを過る時、あいしらいの女、いかにさこんの丞、なんじはいづかたへ行ぞといふ。さこんの丞が返事に、神主どのより(ママ)の御文といふ。それはいかやう成かたよりのふみといふ。さこんの丞が返事に女房衆へ宿をかしたるが、それより参文といふ。女は神主殿はぢぶつ堂に御入さむらう。わらわがまいらせて御返事をとりてまいらせうずるぞ。しばらく待候へといふて、そのふみをとりてぶたひへ出て口伝有。 一 能は観世の能也。 一 七十四 自然居士 あふみの松本にての能。 一 わき、人あき人也。都うんごじにて、おさなきものをかいとつて、あふみの松本よりふねにのつて出る時、ぢねんこじといふせつきやうじやにおつかけられて、わきとたがひに云事あり。 一 間の出たちは花月のあいしらいする者の出たちと同前の出たち也。わきするもの二人出てなのつて、わきのゐざになをる時、あいしらいのもの立て、云立を云也。是はこんぱるりうの時のあいしらい也。 一 くわんぜりうにする時は、つゞみうち出てゐざになをつてから、わきの出て(ママ)さきにあいしらい出て云立いふ也。 一 能はこんぱるの能也。 一 七十五 藤永 津の国の能。 一 しては藤永どのといふ侍也。 一 間の出たち、じねんこじのあいしらいするものゝ出たち同前の出たち也。たちをもちて、とうゑいどのゝともして出也。とうゑいどのより言葉をかくる。 一 後のあいしらい、のふりきに出立なり。なるわう(ママ)どのゝともをして、おなじやうにさゝのはをかたげて立候衆、おなじごとくにうたうて出て、たがひにりやうはう入ちがへ、とうどゐる時、のふりきはつゞみうちの前になをる。なるわうどのはわきのはうになおる。してのとうゑいどのはわき上面になをる。のふりきと三人、みつがなわにゐて、なるわうどのより、いかにのふりき一さし舞てとうゑいどのにさし申せといふ時、のふりきはかしこまつたと云て、まん中にて、一天四かいなみを舞て、りよぐわいながらこれをとうゑいどのへさし申といふ。むかしはみつがなわになをり申候へども、たうせいはのふりきのゐる処に、してのとうゑいなをるによつて、のふりきはしてばしらよりすこしさきにゐる也。こゝろへ可申者也。 一 わきはかまくらのさいみやうじ殿也。 一 能は金春の能也。 一 七十六 芦苅 津の国の能。 一 わき、都にてさる御かたの御内の侍、おちの人の里え参らるゝ時、ともして津の国へくだる。 一 間の出たち、藤永の前のあいしらいするものゝいでたちと同前也。わきのしての跡につゞいて出申也。わきより、此あたりの人とよび出す。其時せりふあり。後に又わきより、さいぜんの人とよび出し、出てせりふあり。むかしはうたひに、露をもはこぶ袖の上、なをありがほのこゝろかな〳〵とうたう時、あいしらい出て、いかに申、さいぜん申たるは此人の事にて候。何事も御尋候へとわきにいふ。当世は、してとわきとのゆい事にてすます。其ぶんにておくべし。わきよりしてに、かゝるめでたき事候はね、都ゑ御ともあらうずる間、ゑぼしひたゝれをめせといふ。其時してはひつこうで、たいこうちの本にてゑぼしひたゝれを着る時、あいしらひのもの、太夫ひつこうでからぶたひへ立て、言語道断の事にて候。さきに御たづねありたるは、いまの御かたの事と見ゑて候よといふて、わきのしての前へゐて、いかに申候と、間よりわきへ云てせりふあり。 一 作物はろうだいこのごとく、四方に作り、かつてに口をあけ、屋根をばわらをうすくしてかづく。おき処はぶたひのまん中よりわき上面の方へよせて、まん中よりすこしさきに、口をばはやしの衆の前の方へむけておく也。 一 能は今春の能也。 一 七十七 鵺 津の国あしやのうらにての能。 一 わき、諸国一見の僧、西国へ執行の僧也。 一 間の出たち、あしかりのあいしらいするものゝ出たちと同前のいでたち也。わき出てよび出て、宿をかるにより、わきにつゞいて出て、わきよび出てあいしらいあり。中入には間云ものより出る也。 一 能は。 一 七十八 采女 大和の国奈良都猿沢にての能。 一 わき、都がたより出たる僧也。 一 間の出たち、ぬえの間を云出たちと同前の出たち也。是はわきより間をよび出す能也。 一 能は金春の能也。 一 間にひようる事あり。 一 わぎもこがねくたれがみをさるさはの池のたまもと見るぞかなしき、人丸うた。 一 猿沢の池もつらしなわぎも子が玉もかづくは水もひなまし。此歌はあめの御門の御せいなり。あめの御門と申は、しやうむてんわうの也(ママ)。  右二つのうたはうねめのみをなげられたる時の歌也。 一 七十九 春栄 いづの国の能。 一 わき、高橋のごんのかみ家佐なり。 一 間の出たち、うねめの間云者の出たちと同前の出たち也。これはしてのともをしたるものが、此うちへあんないと申也。しての出る跡につゞいて出て、たいこうちのきはにゐて、此内へあんないと申時、出てあいしらい、わきに対面いたさんと申時、御たいはうにて候間、たちかたなをばそれがしがあづかり申さうと云て、たちかたなをあづかり、わきにおく也。後にわきよりたちかたなをまいらせ候へと云時、たちかたなをわたす也。 一 能は。 一 八十 殺生石 しもつけの国なすのゝ原にての能。 一 わき、げんのうと云道人也。かづさの国より上る僧。 一 間の出たち、のふりきの出立也。のふりきはどれも同じ出立。わきの僧のともをしてほつすをもちて出る。ほつすのこしらへよう、つえのすへにあなをあけてゑだのごとくにとおし、つえのかしらにくろきうすたれをかけて、ともして出て、たいこうちのわきにゐて、わきの次第、むすびこめたるしもつけやなすのゝ原に着にけり〳〵。いそぎ候ほどになすのゝ原に着て候と、わきが云時、のふりきぶたいへ出て、御いそぎにて候程に、しもつけの国なすのゝ原に御付にて候。まづはいかい野哉や。あらふしぎや飛鳥があれへおつるよ。ありや〳〵〳〵と云。其時わき、なんじは何事を申すぞとことばをかくる。間にくわしくあり。後にわきゑほつすをわたす也。 一 能は。 一 八十一 天鼓 からの能。 一 わき、もろこしごかんの御門につかへたまふ臣下也。 一 間の出立、春栄のあいしらいするものゝ出立と同前の出たち也。たゞしくわんにんの出立にてもしてくるしからず。わきよりよび出して、太夫をまづ〳〵やどへかへし候へと云時、其時たゝしめといふて立せて、右の手をそつとたもとゝもちかけて、がく屋へ送りようくでんあり。さて太夫まくへ入て、ひとりごとをして、はしらよりはしがゝりの方にて云て、わきの前へ出る也。間すみて、くわげんの役者へふるゝ也。 一 能は観世の能也。 一 八十二 七騎落 伊豆の国の能。 一 わき、和田の小太郎也。 一 間の出立、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着る。あふぎもこしにさす。うらのれ(ママ)ようしの躰也。わきの出る時、さきにふねとかいとを、はしがゝりの中ほどへ、よのものにいださせておいて、わきのしてのともして出て、わきをのせてぬしも乗て、かいをとつて、わきと同じように立てふねをこぐ。わき一せいをうたふ。其の二のくをあいしらいとる。其二のくは、うらうつなみの音までも、ときのこゑかやおそろしやとうたふうちに、ふねのこぎようくでんあり。二のく過てそろ〳〵とこぐ。わきはらをきらんとする時、かいをすてゝいだきとむる。くでんあり。 一 能は。 一 八十三 小袖曽我 さがみの国の能。 これにわわきなし。 一 十郎五良出て、母のかたへ行、あんないを云。 一 間は女の出立、ぬいはく也ともはく成ともきて、ひらぐけのおびをむすびさげて、母の供をして出て、ふへふきの上になをる。十郎あんないを云時、たれにてわたり候ぞと云て、あいしらいあり。母のかたへのつかいをもする。能はてて母の供をして入也。是はつれ女のこゝろ也。 一 能は。 一 八十四 叔母捨 しなのゝ国おばすての能。 一 わき、陸奥丞(ママ)のなにがし、都にのぼりておばすてに来る也。 一 間の出たち、七きおちの間云ものゝ出立と同前也。是は間云ものより出てよし。おばすて山にての能成故、間より立也。 一 能は。 一 八十五 馬乞佐ゝ木 するがの能。 一 わき、かぢわらの源太也。 一 間の出立、狂言ばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにてきて、右の方のかたをぬぎ、大刀をきつぱにさし、つえをつゐて出る也。 一 はやしははやつゞみにて出也。 一 能は。 一 八十六 空蝉 山城京にての能。 一 わき、諸国一見の僧、はじめて都へ上たる僧也。 一 間の出立、てんこの間云ものゝ出たちと同前の出立也。これはわきよりよび出す間也。 一 能は。 一 げんじのかたゝがへは四月也。せつぶん計とは心得べからず。むかしの上らうは四きにかたゝがへと云事あり。かたゝがへとは方ちがへの事也。 一 うつせみのうたは、うつせみのはにおく露のこがくれてしのび〳〵にぬるゝそで哉。 一 源じの、のきばのおぎへよみてつかわされたるうたは、ほのかにものきばのおぎをむすばずは露のかごとを何にかけまし。 一 下おぎの源じへの返歌は、ほのめかすかぜにつけても下おぎの中ばい((は))しもにむすぼをれつゝ。此歌故、のきばのおぎとも下おぎとも申也。 一 八十七 初雪 出雲の国大社にての能。 一 わきはあいしらいする夕ぎりと云女成べし。 一 間はゆふぎりといふ女也。女の出立、小袖そがのあいしらいする女の出立と同前の出立也。後に上臈たちへふれて、女房衆出そろへてから、又神主のむすめへ、との〳〵の上臈たち御よりありて候。一七日の念仏を御はじめ候へやて((と))、神主のむすめに云也。 一 能は。 一 八十八 半蔀夕顔 山城北山と都五条辺の能。 一 わき、むらさきのゝ辺に住居する僧也。我てらにて花のくやうをするなり。 一 間は都北山にての事なり。出たちは狂言ばかまの前とり、かたぎぬをこしおびにてきる。間より立により、扇は手にもちて出て、わきにあふ時扇をこしにさす。後にかたる時扇をぬいてもつ也。いづれもかたり間は、かたる時扇をぬいてもつ也。 一 能は。 一 八十九 誓願寺 山城都せいぐわんじにての能。 一 わき、一ぺん上人、熊野ゝしんちよくをうけ、こくどをゆぎやうしたまひて、せいぐわんじにて御ふだをひろむる也。 一 間の出たち、はじとみ夕がほの間云ものゝ出立と同前の出たち也。はじめ立時は扇をもちて出る。上人の前へ出る時扇をさす也。これは今春りうの間にて云立なし。 一 くわんぜはうのせいぐわんじには云立あり。それは、かやうに候ものは都せいぐわんじの門前に住居するものにて候。一ぺん上人此せいぐわんじへ御出有、六十万人けつじやうわうじやうのみふだをひろめたまふ間、望のかた〳〵は御参り有り、みふだを御うけ候へ。そのぶん心得候へ〳〵。中入の間に立時は、今夜小川の面々ふしぎ成御付げを夢中に見申され、われらごときの者までも、たしかにみな〳〵同前の御つげにて候間、お上人へ参、此ふしんを申さばやと存ると云て、上人の前へ出て、ふしんして、間のしたくは今春りうの間をかたるごとく也。此くわんぜ方の云立は、わき出てからなをりてから云立云也。 一 一ぺん上人は、いよの国かうの七郎みちひろがぢなん也。てんだい衆(ママ)成しが、十八歳にて西山ぜんゑ上人のゑかたり。浄土成。其後けんぢねんちう後宇多のゐんのぎやうに、くまの上((証))じやうでん参詣して、ぢきにごんげんの正躰をはいしたまふ。しんちよくをうけ諸国をゆぎやう也。 一 いづみしきぶは、いづみのかみたちばなのみちさだがつまたる故、いづみしきぶとは申也。卅五のとしまで後世の事は夢にもしらず、こしきぶを先だてゝ、ほつしんの心ありて、せいぐわんじに籠ゐて、わうじやうをとげぬる也。 一 能は。 一 九十 俊成忠則 山城の国の能。 一 わき、しゆんぜいのきやうなり。 一 間の出たち、せいぐわん寺の間云ものゝ出たちと同前也。 一 はじめ岡部の六弥太出、なのりて、いかに案内申候とき、あいしら((らい))、あんないとは誰にてわたり候ぞといふ。しか〳〵。 一 能は今春の能也。 一 九十一 飛雲 しなのゝ国の能。 一 わき、熊野本山の山伏、出羽のはぐろ山に参とて、きその山家にて、ひうんと申鬼に相たり。 一 間の出たち、きやうげんばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにて着る。頭巾はもうせんづきんなり。面はのぼりひげ也。扇をこしにさし、つえをついて出也。かたりすまして後に、もみぢがりのつげのごとく、みくまのゝごんげんよりの御つげなりと、つげしらせて入る也。 一 たいこはらいじやう、出也。 一 能は金剛の能也。 一 九十二 第六天 伊勢の国の能。 一 わき、げだつ上人、はじめて大神宮へ御参詣也。たゞしいまだ京に御座候時の御参詣也。げだつ上人は、桜本の中納言と申たる御かたの御子也。よにかくれなきちしきなり。後に山城の国かさぎ寺に御座候て、げだつ上人と申たるは是也。同国みかのはらのかいじゆせんといふ寺もげだつ上人の御寺也。さあるによつてかさぎでらにて御遠行候処に、御さうれいをかいじゆせんとあらそひ、すでにいくさに成候処に、あつかいになり、御遠行あつて御しがい二つにならせられ、かいじゆせんとかさぎ寺と、両方にて御さうれいありたるといへり。是に付て子細あり。 一 間の出たちは、ひうんの間の出たちと同前の、末社の出立也。扇もこしにさす。つえもついて出る也。 一 たいこはらいじやうにて出也。 一 能は。 一 九十三 木賊 信濃の国の能。 一 わき、都がたの僧、はじめはしなのゝ国の人也。ゆくゑもしらぬおさなきものをひろいて、おさなき者もしなのゝ国のものとなのりて、ちゝに相たがり候故、わざとしなのへつれてくだる也。 一 太夫はらうじん也。つれおとこをつれて、とくさかりに出る。間はつれおとこの跡について出る也。 一 間の出たちは、しゆんぜいたゞのりのあいしらいするものゝ出たちと同前也。 一 しての老人、わきの僧達に宿をかし、わき、あらうれしやといふて、わきのゐざゑなをりて、あいしらい出て、いかにお僧、御心安御ゐり候へ、今のぜうどのはすこし御身におもひありて、時々うつゝなきふぜいの候。その時はこゝろへて御あいしらい候へや。 一 後にして、いかにたれかあるといふ時、あいしらい出て、御前に候といふ。して、御盃をまいらせ候へといふ。あいしらい、かしこまつて候といふ。 一 能は。 一 九十四 竹雪 越後の国の能。 一 わき、ゑちごの国の住人、なをいのさへもん也。 一 間の出たち、女成。ぬいはく成共はく成ともきて、ひらぐけのおびをむすびさげ、おゝゐかづらをかけて、かづらおびせずに、ちりけもとにておゝいかづらをいふ。なをいのさへもんの女也。よび出す時、がく屋よりまくあげさせて出也。まゝ子をば月若といふ也。わきとせりふありて、わきひつこみて、間の女月若をよび出す。月若出ていろ〳〵云て、余所へばしいかしますなと云て、ころばぬほどにつきやつて、たいこ打のわきへひつこむ。さて月若は長松にゐる本のはゝの所へ行、いろ〳〵云て、うたいに、おやこならではかくあらじ〳〵とうたふた時、間のまゝはゝの女出て、さればこそことのほか雪がふりつもりて候。いかに月若〳〵。いかにたれかわたり候といふ時、わきのこやくのおとこ出て、御前に候といふ。まゝはゝ、月わかはどこへ行てあるぞといふ。こやくのおとこ、いや何ともぞんぜず候といふ。まゝはゝ、れいの長松へ行てあるな。とのゝ御かへりあつて御尋候。早々かへり候へと云て、つれて来り候へと云。こやくのおとこ、かしこまつて候といふて、長松へよびに行。よびて来り、まゝはゝ、月若にいろ〳〵いふて、竹の雪をはらわする。その時のくでん是あり。 一 能は。 一 九十五 仏原 加賀の国仏原にての能。 一 わき、都がたより出たる僧、しら山ぜんじやうのため、此秋思ひ立、しらやまぜんじやうし、かゞの国ほとけのはらに来る僧也。 一 間の出たち、せいぐわんじの間をいふ者のいでたちと同前也。 一 仁王八十代高倉の院ぎやう、大じやう大じん清盛公の時、みやこにぎわうぎによとぢといふ遊女三人なり。ほとけごぜんと申は、かゞのくにほとけのはらの人、是も遊女也。ぎわう清盛公事外御ちやうあい也。其時ほとけごぜんかゞの国より上り、ぎわうとりあわせにより、清盛めし出され、御ちやうあいにて、ぎわうは出され、あまに成て、さがのおくにねんぶつ申てゐらるゝ。でんちうをいだされ候時、一しゆのうたを書付、出られ候。其時のうたは、村雨の降もいとわじいつとてもぬれで行べきわがたもとかはと書付て出でられしを、ほとけごぜん見付、いつとてもわれもかやうにあるべしとて、でんちうをしのび出て、さがのおく、しばのいをりへ尋行、ぎわうにあいて、是もあまに成、二人ねんぶつ申てゐられしが、後に古郷なつかしきとて、ほとけの原に帰り、草堂をむすび、ねんぶつ申てあふじやうをとげられ候也。 一 能は。 一 九十六 調伏曽我 さがみのくにの能。 一 わき、はこねの別当坊也。間の出たち、 一 あい、のふりきにて、べつたうのともをして出る。出でたちは、いづれもののふりきと同前也。はこわうをつれて帰り、べう((つ))たうの房帰りけり〳〵とうたふて、わき、のふりきをよび出す。ごまのだんをかざれと云付られ、かしこまつて候と云て、ぶたひのわき上面の方にて、ひとり事の間を云すまして、いそひでごまのだんをかざらばやとぞんじ申と云て、がく屋へはひり、がくやに今壱人のふりきの出立してまたせておゐて、ごまのだんを二人してぶたひへかいて出て、所はわきにた((と))うておきて、ごまのだんをかざり申て候と云て、ひつこうでゐて、能過ぎて、二人ののふりきがかいてはゐる也。 一 よりとものはこねまふで、御ざしきを見わたし、一ばんにかざをりめされ、ねんじゆけだかく見へ給ふは、かまくらどの、左のざ上、かまくらどのゝ御しうとほうでうどの、左りどもへは、うつのみやのやさぶらう、右どもへは、おやまのはんぐわん、まつかわは、おがさわら、中のざしやう一ばんは、しやう(ママ)しのべつたうかぢわらふし、かうのひたゝれ二人は、壱人の大おとこはわだのさへもん、いま壱人はちゝぶのしやうじしげたゞ、そのつぎにつきいだしたる扇づかい、いまこなたをみ候は、くだう一らうすけつね也。 一 能は。 一 九十七 蝉丸 あふみと山城との坂い、あふさか山にての能。 一 わき、ゑんぎのみかどのしんか也。 一 間の出たち、狂言ばかまの前を取り、へんとつをきて、扇をこしにさして出る。うたひに、ふししづみてぞなき給ふ〳〵。是が中入也。こゝにてわら屋をしつらいたるを、まくのうちにおきて、云立を云て、御ありさまをみて、わらやをしつらいてまいらせうと云て、がくやへ入、わらやをもちて出て、せみ丸の御前へ出、わらやをしつらいてまいらする。せみ丸をわらやへ入て、又頓て御見廻申さう。御用の事候はゞ、はくがのさんみと御尋被成候へ、ずいぶん御みやづかい申さうにて候。やがて参らうずるぞやと云て、たいこ打のわきにゐて、能はてゝから、わらやをもちて入也。 一 せみ丸は、ゑんぎ第四のわうじ、御たい内より両がんしいまし〳〵て、あふさか山へすてられ給ひたる能也。さかがみはゑんぎ第三のわうじ也。是は御かみのけ、さかさまにはへたると云ならわし候也。 一 能は。 一 九十八 清重 さがみの国の能。 一 わきはかぢわら也。 一 間の出立は、かぢわらの内の者に成、壱人は狂言ばかまのすそをくゝり、をくそ頭巾をかぶり、たかをすへて、たかのぶちはこしさ((に))さして出、二人は狂言ばかまのすそをくゝり、ぢかみにてかりたけをもちて、わきつれの跡に、たかをさきへ二人は跡に、三人ながら大わきざしをさして出る。一せいの二のくをとる。其の二のくは、鳥をもとらぬ此たかにこうてやきじをかいぬらん。●道行。過からたいこうちの方へ、たかをすへながらひこ((つこ))うでゐる。わきがわきのざへなをる時、ひつこむ、そと、うたいに、きよしげがさらぬやうにて行過る〳〵。こゝにてたかを遣ふようにして、ほうとれ〳〵と云て立て、清重を見て、わきにつぐる。いかに申候。はうぐわん殿の御内のするが二郎清重が通られ候とつぐる。しか〳〵ありて、其間に、たかもたかのぶちもわきにおき、おくそ頭巾もわきにおいてゐる。わき清重をとらへ、ばんをせいと云付る。かしこまつて候といふ。 一 さきへいせの三郎と清重と、ことばとうたひ有て、さてかぢわら一せいにて出也。 一 能は。 一 九十九 愛寿 山城都ほり川にての能。 一 わき、さとうたゞのぶ也。はじめたゞのぶりきじゆがもとに参る。りきじゆが出て、たゞのぶをよびこみ、おくのまへ入ておき、だまいてろくはらへつぐる。後にうつてのともをして出、あいじゆがもとへあんないしやする也。六原へつげ申さうと云て、がくやへひつこみ申也。たゞのぶあいじゆが本へ行、さしせ((くせ))まい過てうたいに、あまるやなみだなるらんとうたふ時、うちて出る。其先にりきじゆ出て、我宿へうちてをつれて行、いかにたゞのぶどの〳〵といへども、りきじゆがるすに、たゞのぶは六条堀川あいじゆがもとへ行たる也。それよりりきじゆあいじゆがもとへ、うちてをやりて、り(ママ)りきじゆはひつこむ。 一 りきじゆが出たち、下にはくの着物をきて、上にじゝろのかたびら、ひらぐけのおびをむすびさぐる也。又、地しろのかたびらをきずに、はくのきるもの計りでもよし。是はきやうげんのやくのあいしらい也。 一 能は。 一 百 鳥追舟 薩摩の能也。 一 わき、左近丞なり。 一 間の出たち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着る。扇はこしにさす。日ぐらしどのゝ供をして出也。乍去、たちをも何ももち不申候。日ぐらしどの出て、しだいなのり有て、いかにたれかあるとよび出也。 一 能は。 一 百一 木曽巻数((願書)) 越中の国の能。 一 間の出たち、鳥追舟のあいしらいの出たちと同前也。 一 能は。 一 わきはこれなきかとぞんじ候。しては木曽殿か兼平か、たゞし後によせてのさきに出るものか。 一 百二 壇風 佐渡の嶋の能。 一 わき、都ひがし山今熊野のなぎの坊のそつのあじやり也。 一 間はきそのぐわんじゆのあいしらいするものゝ出たちと同前也。ほんまどのゝともに、たちをもちて出る也。ほんまどのよりよび出すなり。さて又、わきが子をつれて出て、次第道行ありて、いかにこのうちへあんない申候と云。其時ほんまどのゝ供してたちもちて出たるもの、たちをわきにおき、山伏とのせりふなり。しか〳〵ありて、うたいに、ものゝふこしにのせ申、はまの上野に急ぎけりとうたふ時、ほんまも立てまはる時、間もたちをもちて、ほんまの跡に付てまはり、さてすけともの卿をきつてから、そのたちをわきよりあいしらいへわたすを、あいしらいそのたちとり、たいこうちの処にゐる。又すけともの卿をきつてから,そのたちは、ぢうたのものどももとる事あり。さてほんまよりよび出し、ふれさする也。 一 中入の間の出たち、狂言ばかまをくゝり、かたぎぬをこしおびにてきる。かたなをさし、かたぎぬの左のかたをぬぎ、ゆみをつるをはづいてもち、矢をば壱つはこしにさし、一は手にもちて、はやつゞみにて出る也。はやつゞみとはとぶ〳〵とうつ小つゞみのことなり。 一 能は今春の能也。 一 百三 (から(ママ))一角仙人 てんぢくはらないこくの能。 一 わき、てんぢくはら奈国のていわうに仕へ奉るしんか也。せんだぶにんと申ならびなきびじんのきさきを御とも申、一角のすみかへ参給へり。 一 間の出たち、下にあついたを着て、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにて着る。かしらはもふせん頭巾、面はうそふきかのぼりひげか、二枚の内、扇をこしにさし、つえをついて出る。 一 たいこはらいじやうなり。 一 能は今春の能也。 一 百四 六浦 さがみの国かまくらのせうみやうじにての能。 一 わき、都がたより出たる僧、せうみやうじ一見。たゞしわきのなのり、洛陽ともなのるなり。 一 間の出たち、狂言ばかまの前取り、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をもちて、間云ものより出てなのるなり。わきするものを見付、ことばをかくる時、扇をこしにさし、かたる時に扇をぬいてもつなり。 一 能は今春の能也。 一 百五 縄鈴木 さがみの国の能。 一 わき、よりともの御供の立衆あるべし。 一 間の出たち、六浦のあいしらいするものゝ出たちと同前也。扇はこしにさし、初中後扇はぬかぬなり。事六ケ敷あいしらい也。 一 能は。 一 百六 沖((隠岐))院 おきの国の能。 一 わき、諸国一見の僧、おきの国にくだり、後鳥院((羽院))の御びやうしよ尋也。はじめは人あき人、都の南とばにて女を壱人とらへてくだるが、おきの国へぞくだりける〳〵、云てから、諸国一見の僧出て、なのりて此処の人とよび出す也。 一 間の出たち、なわすゞきのあいしらいの出たちと同前也。 一 能は。 一 百七 弱法師 津国の能。 一 わき、河内国高安の里の左衛門尉(ママ)尉道俊といふ人なり。左右(ママ)衞門尉(ママ)尉女おくれ、我子をまゝはゝにかくる。まゝはゝ其子をにくみ出し、るらうする。其子母の事をなげき、目をなきつぶし、こつじきする。さへもんのぜうは我子行衛もしらず出て死たるとぞんじ、子の弔ひに、津の国天王寺にてせぎやうひく。其庭にて我子と見付、又あいしらいをよび出し、此こつじきの行衛をわすれ候なと申付也。 一 間の出たちはおきのいんのあいしらいをするものゝ出たちと同前也。 一 能は。 一 百八 横山 一 わき、よこやまどのゝいとこ也。 一 間、よろぼうしのあいしらいするものゝ出たちと同前也。 一 能は。 一 百九 篭破 一 わき、太郎次郎。 一 間のいでたち、下にあついたひたゝれ上下、大くちをこみに着て、かすを成大ひげして、大じんゑぼしのうしろをおり、ちいさ刀をさし、すへひろがりをもちて、なのるなり。其供に狂言ばかまの前を取り、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をこしにさいて、なのりたる尉どのゝ供して、二良太良のあいしらいする也。中入の時も、いまの尉殿のともしたるもの出る也。尉どのとあいしらい有り。 一 能は。 一 百十 船弁慶 津国の能。 一 わき、むさし房弁慶なり。 一 間のいでたち、よこ山のあいしらいするものゝ出でたちと同前也。ならいは正本これあり。 一 能は今春の能。四座とも尤用。 一 百十一 武文 津の国の能。 一 わき、つくしのまつらどのなり。 一 間のいでたち、ふなべんけいのあいしらいするものゝ出たちと同前也。今壱人も同前の出立也。 一 能は。 一 後の間に狂言ばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにて着て、左のかたぬぎ、刀をさして、三人ほどつえをついて、ようちといふて出る也。 一 はやしははやつゞみなり。 一 百十二 善知鳥 わうしうの能。 一 わき、諸国一見の僧、立山ぜんじやうして、立山に付也。 一 間の出たち、たけぶんのあいしらいするものゝ出立と同前也。 一 能は今春の能。 一 百十三 国栖 大和よしのにての能。 一 わき、きよみばらのてんわうの御供の、いでたちこそちがい候へ、大じんなり。 一 間の出たち、きやうげんばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにて着て、左のかたをぬぎ、刀をさし、一人は鑓をもちて先へ出る。これは間の頭取り、其跡ひつつゞき同じ出立にして、これも左のかたおぬぎ、刀さし、弓を持て、矢を一はこしさし、一は手にもち、先のものとひつつゞいて出る。二人也。 一 これははやつゞみにて出也。 一 能は今春の能也。 一 百十四 安宅 かゞの国あたかのみなとの能。 一 わき、とがせ(ママ)の何がし、関守也。 一 間のいでたち、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をこしにさいて、たちを右にもちて、わきのとがせの供して出る也。わきのなのる間、たいこうちのゐる処に居る。わきより、いかにたれかあるとよび出す時も、たちを持て立也。立てふるゝる時も、たちを右に持てふるゝ也。 一 後に山伏達の供をして出るは、のふりき也。狂言ばかまのすそくゝり、水衣をこしおびにて着る。かしらはみだきがみにときんをきて、大わきざしをさいて、おひをおふて、つえをついて、山伏の一の跡に出る。二のくの次第ごうりきがとる也。ごうりきとはのふりきの事也。あたかのみなとに着にけりとうたうて、山伏皆々とうどゐる時、たいこうちのゐる処にて、をひをおろしてまつなり。弁慶がよび出し、なんじがをいたるおひを我君にまいらせ候へとべんけいがいふ時、かしこまつて候。これはみやうがおそろしき御事にて候といふて、おひをあふたるうちのはうを、つゞみうちの前へなして、べんけいに渡すなり。さて弁慶がよび出し、せりふさま〳〵有。 一 はじめのとがせどのゝ供して出るあいしらいも、ゆだんあるまじきものなり。方々は何故にかほどいやしきごうりきにといふ前に、とがせどのにたちをわたし、いだきやうにくでんあり。 一 能は。 一 百十五 感(ママ)陽宮 からの能。 一 わきけいか。わきつれしんぶやう也。 一 間の云立するものゝ出たち、くわんにん成故に、下にあついたをきて、きやうげんばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにて着る。かしらにはもふせん頭巾のまるきを着る。扇は手にもちて、云たてする也。 一 たいこ、らいじやうにて出る也。 一 能は観世の能也。 一 わきとのせりふ有りて、さんだいあれとの御事にて候と云わたし、御たいはうにて候間、たち刀をばそれがしが預り申つると云て、たち刀をあづかり、道やうをおしゑる也。 一 百十六 鉢木 さがみの国の能。 一 わきさいみやうじどのなり。 一 間のいでたち、きやうげんばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにて着る。大わきざしをさし、右のかたをぬぎ、つえをついて中入の時、のふいそがしやといふて出て、間を云すまし、心得候へ〳〵といふて、たいこうちのゐる処へひつこうでゐて、後にして出て、のりぢからなければおいかけたりとうたふて、してのつねよ、してばしらよりはしがゝりの方に立て居。其時わきのさいみやうじどの、いかにたれかあるとよびいだす。御前に候と云て出て、はじめの間いふて、たいこうちのもとにゐる。しての出る間にわきざしをぬいておき、つへをもわきにおいて、あいしらいに出也。 一 中入の間の出る時、はやつゞみにて出る也。 一 百十七 小局((督)) 山城の国の嵯峨野にて能。 一 して中((仲))国、せんじを蒙り、こがうのつぼねの御ゆくゑを尋に参らるゝ。 一 間の出たち、女なり。ふるきはくの小袖をきて、上に地白のかたびらをきて、ひらぐけの帯をむすびさげて、かしらはおゝいかづらをきて、うしろをもとゆいにていふなり。 一 大じんもわきの中国も出て、せりふうたひあり。いそぐこゝろのゆくゑかな〳〵とうたふて、せ(ママ)んじも中国もがくやゑ入てから、作物出て、さて小がうのつぼねいづる時、間の女小がうのつぼねの跡に付て出て、こがうのつぼね作物へはいり、とうどゐるまでたいこうちのもとにゐて、こがうのつぼねゐすはりてから、間の女立て、云立をいふ也。作物のいだしようくでんあり。 一 能は。 一 わき、高倉院の臣下也。 一 百十八 生贄 するがの国よし原にての能。 一 わき、下京のおとこ、さいしをつれてあづまへくだる時、よし原に宿おとる。 一 間のいでたち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇はこしにさす。則よし原の宿のていしゆ也。 一 中入の間、下にあついたをきて、きやうげんばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにて着る。かしらにはをくそずきんをきて、面はじやににたる面をきる。其おもてなくは、ぶあくなりともき申べきものなり。つえをついて出る也。 一 たいこはらんじやうにて出る也。 一 間の後のきりのうたいにも、たいこ大つゞみ小つゞみにてはやすなり。 一 能は観世の能也。 一 百十九 六代局入 山城の能。 一 わき、ほうでうの四郎ときまさ也。 一 間の出たち、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をこしにさす。六代つぼね、あんない申さんといふ時、間たれにてわたり候ぞといふて、立なり。せりふありて本党((堂))へおしゑやる。 一 能は観世の能也。 一 百廿 鞍馬天狗 山城くらまにての能。 一 わき、くらまでらひがし谷のそうじやうなり。 一 間のふりき也。出たちはいづれもののふりきの出立也。 一 中入の間、このはてんぐなり。狂言ばかますそをくゝり、水衣にてもそでなしにても、こしおびにてきるなり。其内あいの頭取りは水衣をこしおびにて着て、面はのぼりひげなり。三人出る。三人ながら、かしらにはもうせん頭巾なり。跡より出る二人は面はうそぶき、けんとくなり。はじめ出るも後に出る二人も、三人ながらつえをついて出る也。 一 たいこはらんじやうにて、はじめ壱人出もの出る也。 一 能は。 一 百廿一 橋弁慶 山城都五条にての能。 一 わきなし。たゞし牛若殿がわきのやうなものにてもあるべきか。 一 間の出たち、六代局入のあいしらいのいでたち同前也。はじめ出るものかたぎぬの両のかたをぬいで、とりみだしたる躰にて出る也。 一 はやしははやつゞみにて出る也。 一 能は。 一 百廿二 富士太鼓 山城の能。 一 わき、時の大じんなり。出てなのりて、あいしらいをよび出すなり。 一 間の出でたち、六代局入のあいしらいするものゝ出たちと同前なり。わきの大じんとつれだちて出る也。 一 能は。 一 百廿三 雨月 津の国すみよしにての能なり。 一 わき、西行法師、住吉に宿願ありて参詣なり。 一 間の出たち、末社也。いづれもの末社のいでたちと同前なり。 一 たいこ、らんじやうにて出る也。 一 能は今春の能也。 一 しぜん、太夫の出たちおそくて、間ながくとあらば、末社のまい有り。この末社の舞ども、つゞみたいこはやし、ふへあり。 一 百廿四 求塚 津の国いくたにての能。 一 わき、つくしがたの僧、はじめて都へのぼり、生田の森に着ての事。 一 間の出たち、ふじだいこのあいしらいするものゝ出たちと同前也。 一 能は。 一 百廿五 朝顔 山城都ぶつしんじにての能。 一 わき、諸国一見の僧、本は都の人、おやにをくれ、もとゆいきり諸国一見す。古郷なつかしさに、又都にのぼるなり。 一 間の出たち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着る。扇はこしにさす。間云ものより出る也。 一 能は観世の能也。 一 百廿六 夕顔 山城都五条辺にての能。 一 わき、ぶんごの国より出たる僧、男山に参次手に都一見の僧也。 一 間の出たち、朝顔間云ものゝ出たちと同前也。間云ものよりたつなり。 一 能は観世の能也。 一 百廿七 東北 山城都東北院にての能。 一 わき、東国がたより出たる僧、都一見の望にて、のぼりたる僧なり。間云ものをはじめも中入の間も、わきするものよりよび出也。 一 間の出たち、夕顔の間を云ものと同前の出たちなり。是ははじめも中入の時、わきするものよりよび出されて出る間なり。 一 能は今春の能也。 一 百廿八 葵上 山城都にての能。 一 わき、よがわのこひぢりなり。あいしらいをば、こひぢりより先に出たる大じんがよび出也。 一 間の出たち、とうぼくの間云たるものゝ出たちと同前也。初大じん出る時、ともして出る。大じんよりよび出也。 一 わきのよがわのそうず、おとゞいづれのおとゞぞと尋ば、あいしらいするもの、ちゞ(ママ)のおとゞよりとこたうべし。 一 能は今春の能。 一 百廿九 是害 山城都にての能。 一 わき、ひゑいざんいむろのそうじやうなり。 一 間の出たち、のふりきなれば,狂言ばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにて着る。扇をこしにさし、かしらは白きぬのゝがうしぼうしを着る。てには右にくわんじゆもちて出る。 一 たいこはらんじやうにて出る也。時至(ママ)て二人も出る也。 一 能は観世の能なり。 一 百卅 熊坂 みのゝ国たるいあか坂間の能。 一 わき、都がたより出たる僧、東国下る道すがら、みのゝ国あをのが原に付て、熊坂のちやうはんがゆふれいにあふ。 一 間の出たち、葵上のあいしらいするものゝ出立と同前なり。是は間云ものより出る間なり。せりふにわきより、この辺にてようちがうだう仕たるものゝしさいを語て御きかせ候へと申時、間云ものゝこたへに、是は思ひもよらぬ事御尋にて候。我等もこのあたりにはすみ候へども、近年左様の者の此辺にてありたる事はなく候が、ようちがうだうと被仰るゝに付、思ひ出して候。いにしへくまさかのちやうはんと申人、たるいあか坂あふはかのあたりにて、しゆゝ(ママ)のあくたうをいたされしが、げんじの大将よしとものばつし、うしわかどのにわたりあいて、むなしくなり申されたる人のありたると申が、もし左様の人の事にて候かと云。わきのして、左様の人のはて申されたるしさいを承度候と云。 一 能は金剛の能也。 一 百卅一 羅生門 山城都とうじにての能。 一 わき、渡辺のつな、らいくわうの御内にて一人たうぜんのつわものなり。 一 間の出たち、狂言ばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにて着る。右のかたをぬぎ、刀をさし、扇もこしにさす。つえをついて出る。跡より一人出るものも、同じ出立にて、是もつえをついて出て、おぬしはきどくにはやく出られたといわれて、わごりよがせきめんして出られたときいて、是ほどにこしらへて出たといふ。 一 此間もはやつゞみうたせて出る間なり。 一 能は。 一 百卅二 浮舟 山城宇治にての能。 一 わき、都がたより出たる僧、和州初瀬に参籠して、又都へ上る時、宇治にての事なり。間云ものをわきするものよりよび出す也。又、間云ものより出てもくるしからず。 一 間の出立、くまさかの間云ものゝ出たちと同前なり。間云ものより立事もあり。 一 能は観世の能也。 一 百卅三 山姥 越中の国さかい川とぜんくわうじとの間の山中にての能。 一 わき、都がたの男,女のともをして、ぜんくわうじへ参人なり。越後と越中とのさかい川に付て、ぜんくわうじゑの道のあんないしやをたのむ。都のおとこ、間云ものをよび出也。 一 間の出たち、狂言ばかまの前を取り、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をこしにさす。山姥のしさいをかたる時、扇をぬいてもつなり。わきよりよび出す也。間より出る事なし。 一 能は観世の能也。 一 百卅四 庭鳥立田 河内国の能。 一 わき、かわちの国、平岡殿の供して出る。すわうにて、わきの次第みち行過て、明神へ参らばやと存と云て、わきのゐざの方へ行とき、あいしらいする間云もの出る。 一 間の出立、やまうばの間云ものと同前の出立也。 一 能は今春の能。 一 百卅五 接待 でわの国の能。 一 わき、武差((蔵))房弁慶なり。 一 間の出立、にわ鳥だつたあいしらいするものゝ出立と同前也。次信の子のともをして出る也。すこしのあいしらいなり。 一 能は。 一 百卅六 東岸居士 山城都四条の橋辺の能。 一 わき、東国がたのもの、都へのぼる。遠国ともなのる也。わきなのりて、又、今日は清水へ参らばやと云とき、あいしらいするものより出なり。 一 間の出たち、にわ鳥だつたのあいしらいするものゝ出たちと同前也。あいしらいするものより立なり。しての太夫、かつこを付時、とも〳〵かつこを付なり。 一 能は観世の能也。 一 百卅七 檜垣 ひごの国の能。 一 わき、ひごの国の岩戸のくわんぜおんに三年住僧。くわんぜおん有難とおもひ住也。 一 間の出たち、にわとりだつたの間云ものゝ出立と同前也。 一 此ひがきの能にはらんびやうし有がほんなり。 一 能は。 一 百卅八 遊行柳  一 わき、諸国ゆぎやうの上人、一ぺん上人のおしゑをうけ、六十まんにんの御ふだを衆生にあたへ給へり。 一 間の出たち、これもにわ鳥だつたのあいしらいするもの出立と同前也。是もあいしらいより立也。 一 能は観世の能也。 一 百卅九 梅がえ 津の国すみ吉浦能。 一 わき、かいの国しんゑんざんより出たる僧、衆生さいどのために国〳〵をめぐる僧なり。 一 間のいでたち、ゆぎやう柳のあいしらいするものゝいで立と同前なり。是も間云ものより出る間なり。 一 能は。 一 百四十 酒天童子 たんばの国の能。 一 わき、らいくはう。 一 間の出たち、のふりきなり。のふりきの出たちはいづれも同前なり。つれわきの山伏の跡につゞいて出て、たいこうちのゐざのもとに居、わきよりよび出すなり。大江山に付て、のふりきおくの躰を見て参れと云付られて、のふりきが立て、おくのていをみて参らばやとぞんずると云とき、女、こそでのゑりをもつてぶたいさきへ出て、立ながら小袖のすそをみぎ左へすゝぐまねをしてゐる。のふりきが見付、言葉をかくるなり。 一 女の間のいでたち、下にはくのこそでをきて、上に地白のかたびらをきて、ひらぐけのおびをむすびさげて、かしらはびらりぼうしなり。 一 中入の時、のふりきが立て、さいぜんの女房衆はおりやぬ((らぬ))かと云てよび出す。女、是にゐ参らせさぶらふよと云て立なり。がく屋へ入ざまにのふりきが女をあ((お))ふてゐるなり。 一 能は。 一 百四十一 女良花 山城八幡のさんげにての能。 一 わき、九州松浦がたの僧也。始て都へのぼる。山崎よりおとこ山をみて八幡へ参る時、女良花を詠言葉かはす。 一 間のいでたち、梅がえの間を云ものゝいでたちと同前なり。是も間云者より立てよく候。 一 能は今春の能也。 一 百四十二 斑((班))女 山城の国。 一 わき、都吉田の少将どの東国へ下り給ふ時、み濃国野上宿の長が処にて、はんじよとちぎり、東国へ下り、上りたまふ時、長が処にてはんじよをたづねられしに、長申やう、おい出したると返事を申。 一 間のいでたち、女也。はくの小袖をきて、ひらぐけのおびをむすびさげ、かしらはおゝいかづらをかけて、うしろにてもとゆいにてゆふなり。みのゝくにのがみの宿の長者が事なり。宿〳〵のむかしの人宿は長者とも一字に長共いふ也。 一 能は。 一 百四十三 兼元 紀の国にての能。 一 わき、いんじゆのごばう、かねもと殿の御子息花若殿のししやうなり。 一 間の出立、狂言袴のすそをくゝり、水衣をこしおびにて着る。扇はこしにさす。のふりきの出たち也。かしらは白きがうしぼうしなり。のふりきにも、狂言ばかまの前をとりて水衣をきるのふりきも御入候が、こののふりきは水入に入により、すそをくゝりてよし。 一 能は。 一 百四十四 西行桜 山城の国都の西山にての能。 一 わき、さいぎやうはうし、西山の住僧なり。 一 間の出たち、のふりきなり。いづれものふりきのいでたち同前也。こののふりきは狂言ばかまの前をとり、水衣を着る。すそはくゝらぬなり。 一 能は。 一 百四十五 邯鄲 からの能。 一 わき、こしかきのさきをかくもの也。大むかしは大じんをわきと申也。 一 間の出たち、古きあついたか、はくの小袖かきる。ひらぐけのおびをむすびさげ、かしらにはおゝいかづらをかけて、うしろをもとゆいにてゆふなり。上にそでなしをうちかけて、前をうちあわせて、はりにいとをつけとぢて、うしろははなすものなり。邯鄲の枕をもちて、はやしの衆四人出て、作物を出して、所によくなをして、作物もちて出たるもののくと、まくあげさせて、まくらをもちてはやしなしにする〳〵と出て、作ものゝだいの上、正面のかたにつくばいて、枕をおきて、する〳〵としてばしらのもとまでかへりて、二あし三あし正面へ出てなのるなり。枕のもちやうくでん有り。あうんのこゝろもちなり。さて後うたいに、ねむりのゆめはさめにけりとうたふ。けりのけのじより立て、ろせいをおこすなり。せけんにおこしやうにならいのあるよし、たはごとをつく。それは能も何もしらぬものゝ云たはごとなり。はや能のはてざまに、せりふの一じ長も、はてざまにくらいのびにて、能のこしぬくるによつて、ことばのいふやうさだまるなり。さやうのたわごとをいふ太夫、でくるぼうにてあるべし。 一 能は今春の能也。 一 してをおこすとき、してのかたの通りゑ(ママ)より、右のひざをついて、左のひざを立て、言葉のてうしは能のてうしをもつておこすべし。 一 百四十六 落葉 山城小野辺にての能。 一 わき、諸国一見の僧、北国に候へしが、都にのぼり、小野里に着て、落葉の宮の旧跡を尋るなり。 一 間の出たち、梅がえの間の出たちと同前也。 一 能は。 一 百四十七 輪蔵 山城都北野にての能。 一 わき、九州ちくぜんの国さいふの僧、仏法執行のこゝざしありて、都へのぼる僧なり。あいしらいをよびいだし、北野ゝ天神を尋て参也。 一 間の出立、はじめのあいしらいは、梅がえの間云ものゝ出たちと同前なり。是は常のあいしらいなり。 一 中入の間ははちたゝきなり。出で立、狂言ばかまの前をとり、こし帯計して、上にへんとつを着て、扇をこしにさし、かみは地かみ也。四五尺の竹にちいさきわらのつとを扇だけにして、たてにつきぬき、それにちやせんを三つか五つかさいて、先さきへ一人出てなのりて、ふへふきの前に待。 一 跡より三人も、さきへ出て待ものゝ出たちと同前にて、わたりびやうしにて出る。先へ出たるものより言葉をかくる。 一 ふくべのしんの出たち、下にあついたを着て、きやうげんばかまのすそをくゝり、はくの小袖なりとも、ぬいはくなりともうちかけて、両つまをこしにはさみ、面はふくれなり。かしらはなしうちえぼしの前をおりて着る。すへひろがりを持て、一せいにて出る。一せいは、はちたゝきども、御やしろがどゞめくというて、笛吹の前へかたよつて居る時、ふへをひしぎて、一せいをうたするなり。 一 たいこは渡りびやうし、ふへも同前也。此はやしにてはちたゝきども出る。後きりのうたいをつゞみ計にてはやすなり。はちたゝきどもは下にゐる。ふくべの神はまふ也。 一 能は観世の能なり。 一 百四十八 蝴蝶 山城都一条大宮にての能。 一 わき、和州みよしのゝおくに山居する僧、都一見に上り、一条大宮に着也。 一 間の出たち、おみなへしの間云ものゝ出たちと同前也。 一 能は。 一 百四十九 錦戸 奥州高だちにての能。 一 わき、にしきどの太郎。 一 間の出たち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにて着て、扇をこしにさいて、にしきどの太良のともをして出る也。是ははじめのあいしらいなり。 一 後のはやうちの出たち、きやうげんばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにて着る。大わきざしをさし、つえをついて、はやつゞみにて出て、三郎どのへの大かたどのよりのつかいなり。いづみの三郎どのに、急でいづかたへも御しのびあれとの御つかいにて候と申、がく屋へ入なり。 一 又後の間頭取、がくやよりはしり出て、はやしなしにぶたひにて、是はいかな事と云だいて、方がくがないと云とき、又一人出る。此二人の出たちも、はやうちの出たちと同前なり。 一 はやしは、はやうちの出る時、はやつゞみ計なり。はやうちのひつこむと、其まゝ頭取の間出、其あとに頭取の間のあど壱人出る也。 一 能は。 一 百五十 丹後物狂 たんごの国の能。 一 わき、つくしひこさんのふもとの人也。たんごの国の岩井どのゝ子花松どの、本国たんごの国ちゝはゝ尋たきよし被申候故、つれてたんごに行たる也。 一 間の出たち、にしき戸のはじめのあいしらいするものゝ出たちと同前なり。間過てもがく屋へ入らずに、たいこ打のゐる処にゐて、花松どのを出家になして、僧達のつれだちて、いわいどのゝざいしよへ来り、いわひどのをたづぬるとき、出てあいしらい有。 一 能は。 一 わきの男、岩井どのを尋て、今は行衛もしらぬときいて、しか〳〵有りて、九世の戸のもんじゆだうにて、一七日の間、御せつぱう候へ、ざいしよのもの共をもつて申ふれうずるにて候と申て、(ワキ)いかに処の人のわたり候か。 間 所のものとは何事にて候ぞ。 岩井どのゝ御子息、もんじゆだうにていわ井どのゝため、一七日の御せつぱうなされ候。其よしふれてたまはり候へと申時、心得て候と申て、ふるゝ事も在り。 一 百五十一 放下僧  一 わき、さがみの国の住人とねののぶとしなり。 一 間の出たち、たんごものぐるいの間の出でたちと同前也。のぶとしの供をして、たちをもちて出る。のぶとし、わきのざになをり、とうどしたにゐた時、太刀をわきの左の方、正面のかたに取りよきやうにおきて、ふへ吹の前の方へさがつて、下にゐる。かいさをゝうしろより取りよせて、そばにおゐて、ほうかの出る時、其かいさをゝもつて、わきのゐる下にて、かいさおゝ左にたてゝふねをこぐまねをする事もあり。是はわきするものと云合、わきするものゝこのみ次第なり。はじめわきするものせりふに、我名を尋ぬるともぞんぜぬよしを申せと云時、かしこまつたと申て、して柱のさきへくつろいで、あゝ過分な、かたじけないと云、ひとり事を云てから、ふへ吹の本へなをるなり。 一 能は。 一 百五十二 三井寺泣不動 あふみの国三井寺じやうぢういんにての能。 一 わき、本山御熊野の客僧、かづらき山へ参り、それより江州おんじやう寺ゑ参られたる客僧なり。 一 間の出でたち、のふりき也。いづれものふりの((きの))出たちは同前なり。狂言ばかまの前をとり、水衣をこし帯にきてもくるしからず。わきよりよび出す也。出る時はわきの跡に付て出て待也。 一 能は。 一 百五十三 船橋 下つけの国の能。 一 わき、本山御熊野より出たる客僧なり。松嶋平いづみにこゝろざしてくだりたるなり。 一 間の出たち、狂言ばかまの前を取り、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をこしにさし、間を云ものより出る間なり。 一 能は。 一 百五十四 葛城 大和の国葛城山にての能。 一 わき、出羽の国はぐろさんより出たる客僧、かづらき山参られての事。 一 間の出立たち、船橋の間云ものゝ出たちと同前なり。是も間云ものより出る間なり。 一 能は今春の能也。 一 此間もわきするものゝ跡に付て出也。 一 百五十五 鵜飼 かいの国いさは河にての能。 一 わき、法華衆(ママ)の僧。阿波((安房))のきよすみより出たる僧、かいの国一見に下る僧也。 一 間の出た(ママ)立、かづらきの間云ものゝ出立と同前なり。是は前のあいしらいには、わきよりよび出す。中入の時は、間云ものより出てよし。 一 能は。 一 此間もわきするものゝ跡に付て出也。 一 百五十六 野守 大和の国春日野にての能。 一 わき、出羽国はぐろさんより出たる客僧、大峯かづらきの望にて、大和南都へ来りての事。 一 間の出たち、鵜飼の間云ものゝ出立と同前なり。此間も間云者より立也。 一 能は今春の能也。 一 間云ものはわきとつれだちて出也。 一 百五十七 盛久 さがみの国の能。 一 わき、土屋殿なり。 一 間の出たち、野守の間云ものゝ出立と同前なり。盛久に、ゑぼしひたゝれをめし、御前へ御参あれと、わきより云て、もり久ゑぼしひたゝれを着にはいられて、其まゝあいしらいのもの立て、ひとり事を云て、わきするものゝ前へ出る也。此間もわきするものとつれだちて出也。しぜん太刀をもちて出る事も有間だ、わきするものと云合て可出きものなり。 一 能は。 一 百五十八 立田 大和の国たつたの明神にての能。 一 わき、六十余州に御経を納るひぢりなり。南都より河内国へ立田越をして、こさるゝ時の事なり。 一 間の出たち、もり久の間云ものゝ出立と同前也。是はわきよりよび出す間也。 一 能は今春の能也。 一 百五十九 望月 あふみの国森((守))山にての能。 一 わき、信濃国住人望月のあき長と云人なり。そしやう上り、望叶下る時、あふみの国森山の宿に着て、宿をとらする。其時我等名とい候ともな云そと云付なり。 一 間の出たち、立田の間云ものゝ出たちと同前なり。太刀をもちて、あき長殿の供をして出る也。わきがなのりてよび出す時も、太刀を持て立なり。よび出すまでは、大つゞみうちの右のきはにつくばうてゐる也。宿をとりに行時も、太刀を持て行也。宿を取りて、あき長殿を、かう〳〵御入候へと云て、わきの居座へ下にとうどゐた時、わきのしての左のかた正面の方に、太刀を取能き処におきて、ふへ吹のちと上になをりて居るなり。   しての太夫、いかにあんない申候と云時、立てあいしらうなり。いづれも正本に書付のごとく、むつかしきあいしらいに候間、ゆだんなくこゝろがけてあいしらうべし。 一 能は。 一 百六十 篭太鼓 つくしの能。 一 わき、九州松浦の何がし、知行み内に、せきの清次と云もの、たごうとこうろんしたる能也。 一 間の出たち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこし帯にて着て、扇をこしにさし、大わきざしをちいさ刀をさすやうにさいて、わきの供をして出て、たいこうちの座になをる。わきよりよび出す也。ろうにたいこをつることも、あいしらいするものがつる也。 一 能は。 一 百六十一 松虫 津の国あべのゝ市にての能。 一 わき、安辺(ママ)野ゝ市人なり。 一 間の出たち、立田の間云ものゝ出立と同前也。此間、殊に間云ものより出る間なり。 一 能は。 一 百六十二 錦木 わうしうの国けふの市にての能なり。 一 わき、諸国一見の僧、東国を見ぬにより、東国におもひ立、みちのくのはてまで、あんぎやの僧なり。 一 間の出で立、松むしの間云者の出立と同前也。此間も間云ものより出てよし。 一 能は。 一 百六十三 野ゝ宮 山城の国の能。 一 わき、一所不住の僧、都のこりなく一見し、西山のゝみやの旧跡に来り、一見する僧なり。 一 間の出立、にし木ゞの間云ものゝ出立と同前也。これも間云ものより立てよし。 一 能は。 一 百六十四 吉野静 大和よしの郷にての能。 一 わき、さ藤忠信なり。 一 間の出立、狂言ばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにて着る。扇をこしにさして、大がたなをきつぱに指して、同じ出立にて二人也。さきへ出たるもの、何をもおつ取つて云なり。 一 一番能にする時は、たゞのぶとしづかと出て、もんだうありて、しづかのうたいに、かつてのごぜんに参りけり〳〵と云時が中入なり。爰にて間出る也。又前なくしてする時は、たゞのぶ計出て、なのりて、大かうだうの庭に出て、しゆとのせんぎを聞かばやとぞんずると云て、たいこうちのゐざゑはい入りたる時、間出る也。さて二人、かうだうの庭に出て、せんぎをする時、たゞのぶぶたいへ出て、とうどゐたを見て、あいしらいよりことばをかくる也。 一 能は。 一 百六十五 元服曽我 さがみの国の能。 一 わき、はこねのべつたうなり。 一 間の出たち、のふりきなり。のふりきの出たちは、いづれも同前也。助成の供のもの、あんないを云時、のふりき、あんないとはたれにてわたり候ぞと云て出て、せりふあり。 一 能は。 一 百六十六 舎利 山城の国都東山せんにう寺にての能。 一 わき、いづもの国みをのせきより出たる僧、はじめて都に上り、せんにうじへ参りたる僧、御舎利を望にて参りたるなり。 一 間の出立、きやうげんばかまの前をとり、こし帯をして、扇をこしにさして、へんとつをうちかけて着也。かしらには黒きうすきかます頭巾をかぶる也。わきよりよび出也。 一 能は今春の能。 一 百六十七 大会 山城都辺にての能。 一 そうじやう也。 一 間の出立、木葉天狗也。きやうげんばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにて着る。扇をこしにさす。又そでなしをこしおびにて前計をきこみ、うしろをばはなす也。面はのぼりひげ、うそふき、けんとく也。かしらはいづれももうせんづきん、しやう〴〵ひ、いづれもひようげたるづきんどもなり。跡に二人出る。何も三人也。三人ながらつえをついて出るもの也。 一 能は観世の能也。 一 百六十八 安濃(ママ) いせの国あこぎがうらにての能。 一 わき、西国がたより出たる僧、大神宮へこゝろざしてのぼる僧也。 一 間の出たち、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇はこしにさして、間を云もののかたより出て、申てよし。 一 あこぎがうらと申は惣名也。あこぎといふものは、そのところのうら人也。せつしやうきんだんのうらと申しさいは、そのうらにて大神宮へ参る御ごくうのうをゝ取る処なればとて、せつしやうきんだんのうらといふ。しかるにかのものよな〳〵しのび入て、あみをおろしたる故にあらはれてとらへられ、ふしづけにあいたるにより、うたにも、いせの国あこぎがうらにひくあみもたびかさなればあらはれぞするとも、あらはれにけりともよみし故に、あこぎがうらといふ。かのあこぎといふものは、ばんじ何事を仕れども、人間のあくまで仕たるものにてあればとて、い名に処のうら人みな〳〵申たる上に、たび〳〵せつしやうきんだんの処にて、あらはるゝまであみをひきたるにより、いよ〳〵しゝたる跡までも、あこぎと申つたへ候也。此あこぎといふもの、いせうらにてかくれもなきつわものにてありたるゆへに、あこぎといふなをいせうらの惣名になりたると申つたへ候。わきよりふしんする時のため書付也。 一 能は。 一 百六十九 犀 一 わき、いづみの小二良出て、よりともの御前ゑ罷出、せりふ有て、御前の侍めん〳〵に、いづみめんぼくこれなりと、うらやまん人こそなかりけれ〳〵。是が中入也。 一 間のいでたち、きやうげんばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇をこしにさし、大わきざしをさいて、つえをついて出る也。 一 はやしははやつゞみにて出る也。 一 能は。 一 百七十 太(ママ)木 長門の国あぶの郡の能。 一 わき、ながとの国あぶの郡のくわんおんだうの住僧也。本党((堂))こんりうのため、北だにの大杉をなをさするに、のふりきをよび出して云付る也。 一 間のふりきなり。いづれものふりきの出でたちは同前也。わきのともをして出て、たいこうちのもとにゐる。わきよりよび出し、北だにの大杉をそまどもになをせと云付られて、そまに、あじやりの御諚には、本だうのむな木になさるべき間、北だにの大杉をなをされ候へとの御事なり。そのぶん心得候へ〳〵と、がくやへむかつて云て、たいこうちのゐざにゐる。   中入は木のせい出て、そまともんだうありて、うたいに、つばさと成り上りてくもをわけてとんで行、たつくもわけてとんでゆく。是が中入也。こゝにてのふりき出て、そまのまへ出てせりふ有り。 一 能は。 一 百七十一 大原御幸 山城の国の能。 一 わき、後鳥羽院のしんか也。出てなのりありて、間をよび出す也。 一 間のいでたち、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇はこしにさす。わきのともをして出て、たいこうちのわきにゐる。わきよりよび出也。 一 能は。 一 百七十二 俊寛 さつまの能。 一 わき、へいしやうこくの御内の人也。わき出てなのりて、たいこうちのゐる処へはいりて、さて、たんばのしやう〳〵なりつね、へいはんぐわんやすより入道と、二人出てうたいありて、さて、しゆんくわん一せいにて出る也。しゆんくわんして也。三人いろ(ママ)もんだい有りて、うたいに、ものおもふ時しもいまこそかぎり成りけりといふうたいすぎて、ふへふきのもとに三人ながらとうどゐると、ふへひしぎて、一せいうち出す時、あいしらいするもの、ふねをもちて出也。 一 間の出立、大はらごかうのあいしらいするものゝ出たちと同前なり。三人さきへ出て、いろ〳〵しか〳〵ありて、三人ながらとうどふへふきの前になをると、一せいうち出すと、ふねをもちて出て、えぐちの舟をおく処にすぐにおいて、かいをも舟にそへておゐて、舟より上りて、一だんの日よりと、してばしらのもとにて云出也。 一 能は。 一 百七十三 正尊 山城都にて能。 一 わき、さいたうのむさし房弁慶也。わきよりよび出也。 一 間の出立、しゆんくわんのあいしらいするものゝ出立と同前也。わきのともして出て、たいこうちのもとにゐる。わきよりよび出也。 一 間、中入の出たち、女也。此女はわる女と云て、下に古きはくの小袖をきて、上に地白のかたびらをきて、ひらぐけのおびをむすびさげて、かしらは白きぬのゝびらりぼうし也。中入に、君もぎよしんじよにいらせたまへば、おの〳〵たいしゆ((ゆつ))申けりと云中入也。はやつゞみにて女出也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は。 一 百七十四 士童 からの能。 一 わき、ぎのぶんていわう也。 一 間云立(ママ)のいでたち、くわんにんなり。下にあついたをきて、きやうげんばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。かしらはもうせんづきんかすきずきんかきる。はやしの衆、作物出て、大つゞみ小つゞみしやうぎにこしをかけ、かたをぬいだるみて、扇をもちて、まくをあげさせ出る也。くわうていの云立と同前なれば、はやしなし。 一 能は。 一 百七十五 常陸帯 ひたちの国かしまにての能。 一 わき、ひたちの国かしまの社人也。なのりて正月十一日の御神事をば、ひたちおびの御神事と申。とりおこない申と云うて、間をよび出す。 一 間はじめの出立、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇をこしにさして、わきのともをして出、たいこうちのゐる処にゐる。わきよりよび出す也。 一 中入の間は、出たち社人なり。狂言ばかまのすそをくゝる。後にみこしをかくによつて、すそをくゝりてよし。水衣をこしおびにてきる。かしらは大じんゑぼしを前をおりてきる。扇をもちて、らんじやうにて出る。中入のうたいは、うたいあらうたて御がみ、ひたちおびかへしたまへやと、これが中入也。後に、いかにゐさしますかと云て、よび出す。これも社人の出たち同じごとく也。よび出時、がくやより出也。社人の出たち二人と、はじめのあいしらいするものと以上三人也。 一 能は宝生の能也。 一 百七十六 雲林院 山城都にての能。 一 わき、きんみつなり。 一 間の出立、ひたちおびの前のあいしらいするものゝ出立と同前也。間云ものより立てよし。 一 能は観世の能也。 一 百七十七 黒塚 奥州あだちがはらにての能。 一 わき、なちのとうくわう房のあじやりゆうけいと申也。 一 間の出で(ママ)、のふりきなり。いづれものふりきは同前の出たち也。乍去たびの出たちなれば、きやうげんばかまのすそをくゝりてよし。わきのともをして出て、中入の時、間ののふりき立て、してばしらの間(ママ)中ほどさきへ出て、ひとりごとを申て、わきの前へ出る也。 一 能は。 一 百七十八 融 山城都六条辺にての能。 一 わき、諸国一見の僧、はじめて都へ上りたる僧也。 一 間の出たち、うんりんゐんの間云ものゝ出たちと同前也。此間にかぎり、間云ものより立てよし。わきの前へ出候迄は、扇をこしにさして出てせりふありて、かたる時、扇をぬいてもちてかたる也。正本にくわしくこれあり。大事の間也。むさと相伝あるべからず。 一 能は今春の能也。 一 とをるこう、御たんじやうは天長元年かのへ辰のとしとも、きのへたつのとしともあり。こうじなされたるは仁王五十九代宇多の天皇の御宇くわんぺい七年きのとの卯八月廿五日、御とし七十三にてこうじなり、又いほんには七十四共有。 一 百七十九 湿((濡))衣 ちくぜんの国そめ河と云処の能。 一 わき、諸国一見の僧也。諸国執行してそめ川に付て、あいしらひをよび出也。 一 間の出たち、うんりんゐんの間云ものゝ出たちと同前也。はじめのあいしらひをあいしらうて、たいこうちのゐざにゐて、中入の時、間云ものより立也。 一 能は。 一 百八十 禅師曽我 さがみの国の能。 一 わき、はじめはをにわうだん三郎也。後のわき、いとうの九郎介宗也。 一 間の出たち、のふりき也。此のふりきは、狂言ばかまの前を取りて、水衣をきる。いづれものふりきの出たちは同事也。 一 能は。 一 百八十一 大仏供養 大和南都の大仏にての能。 一 わき、みなもとのよりとも也。 一 間の出たち、のふりき也。のふりきの出でたちは何も同じ事なれども、此のふりきは狂言ばかまのすそをくゝる也。はじめかげきよ出て、かげきよの母も出て、いろ〳〵ありて、うたいに、かげきよは跡を見送て、なみだと共にわかれけり〳〵とうたふが中入也。此のふりきはつえをついて、はやつゞみにて出也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は観世の能也。 一 大仏供養の間はむかしより中興まで、此間有来候へ共、くわん世左近代にて間なしにいたされ候により、中入の出羽の時、はやしの衆、ひさしくはやされめいわくいたされ候へ共、狂言衆のためにはなき事、やすみに成候間だまり申候。 一 百八十二 江口 津の国江口の里にての能。 一 わき、都がたより出たる僧、西国執行にくだる時、江ぐちの里に付て、里人をよび出し、江ぐちのちやうの旧跡を尋也。 一 間の出たち、ぬれぎぬの間云者の出立と同前也。わきとつれだちて出て、たいこうちのゐざにゐる。わきよりよび出す。はじめのあいしらいをあいしらうて、たいこうちのゐざにゐる。中入の時、間云者より出る間也。 一 能は今春の能也。 一 しやうくう上人江口へ来りたまへるは、一条の院御宇の時分、又一条の院より鳥羽の院の御宇は九代後也。年代はやうやく百廿壱年余後の代が鳥羽の院の御宇也。然どもとばのいんの御宇の、さいぎやうにちやうの宿をかしたまはざる事、ちやうは人間にあらず、ふげんぼさつのさいたん成によつて、いにしへながれをたてたまいたるふぜいにて、西行にはあいたまへるはうべんの心なり。 一 百八十三 長郎((張良)) からの能。 一 わき、かんのかうそのしんか長良也。 一 間の出たち、下にあついたをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきこみ、扇をこしにさし、かしらはもうせん頭巾かすき頭巾かをきて、つえをついて、はやつゞみにて出也。中入は、うたいに、又こそこゝにきたらめと、いさみをなしてかへりけり〳〵と云が中入也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は観世の能也。 一 こくじやうさんはぶつぼさつのすみたまへる山也。日本にては富士山、だいたうにてはこくじやうさん、てんぢくにてはりやうじゆせん、みつの山也。 一 くわうせきこうはこくじやうさんにてはきなる石也。そのせい也。 一 百八十四 紅葉狩 信濃の国とがくし山にての能。 一 わき、よごのしやうぐんたいらのこれもち也。 一 間の出たち、末社の神也。よのまつしやよりあがり也。これはきやうげんばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにてきる。又そでなしをうしろをはなして前計をこしおびにてきる事もあり。何も扇はこしにさし、太刀を右に持て、らいじやうにて出る也。 一 たいこらいじやう也。是はひとしほたいこらいじやうよし。 一 能は。 一 間の面はのぼりひげ也。 一 はじめ太夫のともしてわる女出る。其出立は、下にはくの小袖をきて、上に地白のかたびらをきて、ひらぐけのおびをむすびさげて、かしらはびらりぼうし也。 一 百八十五 車僧 山城嵯峨の辺にての能。 一 わき、くるまぞう也。 一 間の出立、木葉てんぐ也。さりながらみぞこへてんぐうとなのりてよし。出立は狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしおうしろをはなし、前計をこしおびにてしめてきる。うしろをはなしたるそでなしの中程を、ほそきいとにてゆる〳〵と小ながくこしおびにひかへてよし。其故はくるうあいなれば、前へかゝらぬやうにといふ事也。 一 面はうそふきをきてよし。づきんはもうせん頭巾。 一 たいこはらんじやうにて出る也。中入は、うたいに、我住里はあたご山、太良房があんじつに御入あれやくるまぞう。 一 能は。 一 間を長とあらば正本のおく書に有事をいふべし。 一 百八十六 小塩 山城大原おしほの明神にての能。 一 わき、下京辺より若人々をともない大原野花見に出たる衆也。是はわきより処の者をよび出也。 一 間の出たち、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。わきの跡に付て出、扇はこしにさいて、中入(ヒヒヒ)のかたりの時、扇をぬいてもつ也。 一 能は。 一 百八十七 海士 さぬきの国ふさゞきのうらにての能。 一 わき、おとこわき、ふさゞきの大じんどのを御ともして出る。わきよりあいしらいをよび出也。 一 間の出たち、おしほの間を云ものゝ出立と同前也。わきよりよび出也。間よいころに候はゞ、くわげんの役者をのぞまずともくるしかるまじく候。 一 能は今春の能也。 一 百八十八 当麻 大和当麻寺にての能。 一 わき、廻国のひぢり也。御((三))熊野より都へ登るに当麻寺へ参りたり。わきより間云ものをよび出也。 一 間の出たち、あまの間云ものゝ出たちと同前也。 一 能は今春の能也。 一 はいたい天皇の御代てんぴやうほうじ七年みづのとのうのとし六月廿三日のよ、あみだ如来はすのいとにてまんだらをおりたまふと也。 一 百八十九 藤戸 びぜんの国ふじとの渡りにての能。 一 わき、さゝきの三郎もりつな也。あいしらいするものをよび出也。 一 間の出たち、当麻の間云ものゝ出たちと同前也。さゝきの三郎もりつなのともをして出る。しぜん太刀を持てともして出事も有り。わきよりよび出し、太夫をまづ我やに返し候へと云付時立て、しての太夫を引立、して柱の間中ほどはしがゝりの方へおくりて、太夫はがくやへ入。其太夫を見送て、あらいたわしやと云て、正本のごとく云て、わきの前へ出る也。 一 又わきのともをして出て、よび出て、そせうの事あらば申せとふれ候へと、わきが云事もある間、左様に申さば、間云はてゝふるゝ事あるほどに、いかゞとわきと談合して、それにもふれよと申さば、其ふれは、   処のものども承候へ、さゝ木の三郎もりつなどのの、此処御拝領有て、たゞいま入部被成候間、そせうの事有ば申上よとの御事也。申上度事有ばいそいで申上候へ〳〵とふれ可申もの也。 一 能は今春の能也。 一 百九十 降魔 一 わき、しやか如来。 一 間の出たち、ざうの出たち也。ざうは毛皮のじゆばんかるさんに、ごぼうふとき(ママ)ほどなるけがわににたるをゝつけて、かしらにはもうせんづきんのかみへみぢかくまるきづきん、面はうそふき、つえをついてらんじやうにて出る。間をかたりすまして、めもごもやうも、三人ながら出でよといふてよび出す。 一 めといふは馬也。ごうし也。やうはひつじ也。この三人はきやうげんばかまのすそをくゝり、めはけがわのひつしき也ともせなかにきて、こしおびをして、かしらはまるきもうせんづきん、面はけんとく也。 一 ごといふはうし也。是はくろきけがわをこしおびにてきる。かしらはくろきたれをかけて、くろきづきんをきる也。 一 やうはひつじ也。これは白きけがわをこしおびにてきる。かしらは白きたれをかけて、面はのぼりひげ也。   又うしの面はめの大き成おうじ面て也。後出三人もつえをつく也。中入に夕阝の雲に立かくれ、きめんのすがたはうせにけり。是が中入也。はじめ出るざう、間の頭取也。これ壱人出る時、らんじやうにて出也。後出る三人は、よび出すにより、はやしなしにまくあげさせて、三人つれだちて出也。 一 たいこはらんじやう也。 一 能は。 一 百九十一 土車 信濃のゝ(ママ)国の能。 一 わき、ふかくさのせう〳〵也。子はせう〳〵が子也。しては子のめのと也。せう〳〵うちのもの也。うたいに、しなのゝ国にきこへたる、ぜんくわうじにも付にけり〳〵とうたふて、せりふに、(シテ)いそぐほどにぜんくわうじに御付にて候。内神((陣))へ御参り候へと、してのいふ時、のふりき出て、やあ〳〵こゝは内神にてあるぞ。とう〳〵出で候へといふ。 一 此のふりき出たちは、何ののふりきの出立も同前也。めのと子をつれて出る時、つれだちて出、たひこうちのゐざに待てゐて、内神へ参らうといふ時、立てとむる也。 一 言語道断の事といふせりふの間に大つゞみのあいしらいのかず定り候間、一ぢもことばに、よせのけあるまじく候。 一 能は。 一 百九十二 土蛛 山城都にての事なれども、能は大和の国かづらき山にての能。 一 わき、みなもとのらいくわうの御内、ひとりむしやと申人也。 一 間の出立、狂言ばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにてきる。大わきざしをさし、右のかたをぬいで、つえをついてはやつゞみにて出て、大かた間をかたりて、みな〳〵ゐさしますかと、がくやゑむかつてよび出す。其時さきへ出たる壱人の出たちのごとくに出立て、二人か三人ほど、これもつえをおなじやうについて、つれだちて出也。 一 はやしは中入に、はじめ壱人出る時、はやつゞみ也。 一 能は。 一 百九十三 伏木曽我 するがの国の能。 一 わき、お((おほ))いそのとらごぜんをともして、ふじのすそのへ参おとこ也。 一 間の出たち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇をこしにさす也。これはわきよりよび出す也。又間云ものより立てもくるしからず。 一 能は。 一 百九十四 石橋 てんぢくしやうりやうぜんもんじゆの浄土、石橋の本にての能。 一 わき、大江の定基出家し、寂照法師、入唐渡天の望にて石橋につく也。 一 間の出たち、せがれせんにん成により、狂言ばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにてきて、その上にそでなしをうちかけて、前をば水衣とかさねてうちあわせ、こしおびにてしめてきる。かしらはとがりたるもうせんづきんに白きたれかけて、ずきんをかぶる也。面はうそふき也。のぼりひげにてもくるしからず。つえをついてはやつゞみにて出る也。此はやつゞみにならい有り。太夫のがくやへ入時、まくおるるまではしんにとぶ〳〵とはやす。まくおりてすこしはやめ、間の出る時はやくうつ。是三だんのならい也。 一 江戸にて西丸 大((台))徳院様の御時、石橋御所望にて候時、幸の小左衛門尉申様は、かたり間と親の五郎次郎申おき候間、はやしはなきよし申候時、俄の御能なれば、たがいの云分は後日御沙汰急度可被成間、能の調候様に、このたび一度は堪忍して能の有様にと被 仰付候故、はやしなしに弥太郎に出て申せと申つけ、調候て、其後卅(ママ)日計後に、我等と弥太郎を西の丸へ めし候て、御使は酒井うたのかみどの、土井の大ゝいどの、長井しなのどの、此三人御使にて、石橋の間の云事、能御覧被成て、いよ〳〵はやしなくては出られぬ間にて候を、堪忍してはやしなしに出て能を調候事、御満足被成候間、いらいに小左衛門りくつを申、打まじきと申候はゞ、御せいばいを被成か、しまへ御ながし可被成候間、このたびの事は、 上様御わびごと被成候間、かんにん仕れと、 御意候故、いろ〳〵申上候へ共、 御年寄衆様達もいらいの事まで、 御定候間、かんにん仕れと被 仰候に付、堪忍仕候処に、   寛永十三年  日光にごんげん様御みやつゝがなくたちおさまり、御みやうつしに、 しやうぐんさま御成にて御能候て、江戸の御城三の丸に御ぶたいたち、御さじき惣まわりに御たて被成、御能御座候時、石橋 御所望にて御座候時、又幸の小左衛門、はやしなくかたり間のよし申候て、りくつを申候時、我等申ぶんは、此間かぎりかたり間に成不申候間、かたり間に成だうりを申わけ候へ。そちのおやのひが事を申をまこととぞんじ、おやのはぢまでかく事は、まつだいまでもものしらずに成、代々はぢをかく事笑正((止))也とぞんずる間、かたり間に成しさいを申せと、こみつけ候へば、それにてもうつまじきと申候処に、 しやうぐんさま御定には、何をもしらいでりくつを申、うつまじきならば、しまへ御ながし被成べきか、又御せいばいを被 仰付由 御意被成候故、めんぼくうしない、出ておめ〳〵とうち申候。げいをするものゝ上にては、てんがのはぢをかき申候。いらいともにも石橋においては、はやつゞみにて出申間也。 一 石橋の間、むかしはらんじやうにて出申候へ共、あふみの国くわんおんじに六かくどのの御城御座候て、くわんぜ太夫今春太夫たちあいの御能被仰付候時、石橋御所望にて御座候時に、この石橋の間にらんじやうにて間出、又してのしゝの出時、惣のらんじやううち申事いかが候間、くわんぜ太夫どのも今春太夫どのも御座候て、はやしの衆はくわんぜ彦右衛門、其時のめいじん衆御座候、おの〳〵御談合候て、はやつゞみに御さだめ被成候仕とて、ぢが与左衛門たいこなれば、てまへのめいわく仕候。其らんじやうのうちわけは御座候へ共、不存ものおなじやうに心得て可申候間、いかゞ御座候はん哉と被申。おの〳〵尤と同心にて、それよりはやつゞみにきわまり申候。其時のたいこ則ぢが与左衛門、小つゞみはくわんぜ彦右衛門にて御座候。さやうの事も何をもしらず、幸小左衛門申出し、てんがのめんぼくうしない申候。上下ばんみん此めんぼく不存ものも是なく候へば、則後代のため書付おき申候。 一 百九十五 刀 出羽の国はぐろさんのせん((能))だち也。 一 わき、出羽の国はぐろさんのせんだち也。 一 間の出たち、ふしきそがの間云ものゝ出立と同前也。このあいしらいはしての供をして出る。してのかたよりよび出也。 一 はぐろさんのせんだちとともして出るは、のふりきの出たち也。わきのともをして出て、是もたいこうちのゐる処にゐる。これもわきよりよび出也。   きやうのとのを供してかたなどのへ参と、云付られて、きやうのとのをともして刀殿へゆき、あん内をいふ。その時、してのともして出たるあいしらいするもの出て、それとせりふあり。 一 はじめしてのあいしらいは、してに云付られてふれあり。 一 せんだちと刀どのとたいめんありて、せんだち刀を所望してみて、さかもり有て、せんだちも同宿もねむり候時、おいどもをのふりきが先へなをす。せんだちのおひわきのゐざのきわ、きやうのとのゝおい上面の見付のはしらのかた、せんだちのおいときやうのとのゝおひの間に、よのおひあらばおくべし。いづれも通りは同じすじ也。よのおひなくは二つのおひ計ぶたいの両方におきすまして、のうりきはたいこうちのゐざへなをると、わる女刀をもちて出て、かやうにさぶらうものわと、してばしらよりまなかほどはしがゝりの方にて、上面へむきなのる也。此わる女の出たち、あついたのふるきか、はくの小袖かきて、ひらぐけのおびをむすびさげて、おゝいかづらをかけて、うしろをもとゆいにていふて、右の手に刀をさげて出て、いふべき事をいふて、其刀をきやうの殿のおひへ入て、又あいしらいあり。その女とのふりきとあいしらいありて、のふりき後に申さうずるといふ時、女客僧たちへぢきにいふ。 一 能は今春の能也。 一 百九十六 身売 一 わき、人かい人也。 一 間の出立、ふしきそがの間云ものゝ出立と同前也。則せんどう。してはみをうる人也。 一 能は。 一 百九十七 水無瀬 一 わき、津の国みなせの里の為世の卿ほつしんしての僧。高野山よりふるさとへ下たる也。 一 間の出たち、ふしきそがの間いふものゝ出立と同前也。 一 能は。 一 百九十八 岡崎 山城の国の能。 一 わき、都のにし大原おしほの明神の神ぬし也。出てなのりて、花の番の事申付る也。 一 間の出たち、ふし木曽我の間云ものゝ出たちと同前也。 一 能は観世の能也。 一 百九十九 悪源太 あふみの国石山寺にての能。 一 わき、はじめは江州石山寺の住僧也。本わきはなんばの次郎つねとを也。悪源太の打手に向ひ、悪源太を生どる也。 一 間の出たち、土蛛の間云もの出たちと同前也。つえをついて、はやつゞみにて一人出る也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は。 一 弐百 空腹 やまとよしの郷にての能。 一 わき、はじめは伊勢の三郎よしもり也。後、よしのゝ房中ほうしむしや也。則よせての衆也。してはたゞのぶ也。 一 間の出立、あくげんだの間云ものゝ出立と同前也。是もつえをついて、はやつゞみにて出る。中入は、うたいに、たゞのぶはたゞひとり、とまるこゝろのさこそは、たよりもなみだなるらん〳〵。是が中入也。後にふれて入也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は。 一 弐百一 未((羊)) からのけいやうこくの能。 一 わき、けいやうこくのみかどのしんか也。 一 間の出たち、下にあついたをきて、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにて着る。扇をこしにさし、わきのともをして出て、たいこうちのゐざにゐる。わきよりよび出、高札の事をふれて、又たいこうちのゐざにゐて、能はてゝ、わきのはいる時、ともしてはいる也。かしらはもうせんづきん也。 一 能は。 一 弐百二 現在鵺 山城都禁中にての能。 一 わき、源のよりまさ也。 一 間の出たち、あくげんだの間の出たちと同前也。しかれども大わきざしもさゝず、かたをもぬがず、扇計こしにさし、つえをばついて、出る也。是もはやつゞみにて出也。はやつゞみとはとぶ〳〵とうつつゞみの事也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は今春の能也。 一 あべのやすなりといふうらかたは、とばのいんのぎやうのもの也。このゑのいんととばのいんとは二代目也。とばのいんは七十四代、こんゑのいんは七十六代也。 一 弐百三 夜打曽我 するがのふじのまきがりの時の能。 一 中入はうたいに、すご〳〵と跡を見送て、なきてとゞまるあわれさよ〳〵。是が中入也。 一 先へ出る間は大とうないに成て出る。出立はきやうげんばかまの前をとり、扇もさゝず、こそでをうちかけて、左りには尺八をもちて、右にはひらぐけのおびのまん中おもちて、小そでも長き小そでをひきずるごとくにおびをせず、おびときはだけて、おびをもひきずりて、かしらはみだきかみにて、しどけなふとりみだしたるていにて、はやつゞみにて出也。 一 それをみて今一人出者は、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇をこしにさいて、間うろたへて一まはりまはる時、何事ぞ〳〵と云て、間の大とうないにことばをかくる也。いろ〳〵云て、本間の大とうないに成たるものより先へかへる。間の大とうないは、やいきるはなう、あゝかなしや〳〵と云て、ころびをうちて、がく屋へ入也。 一 能は。 一 弐百四 葛城天狗 大和かづらきにての能。 一 わき、みね入のせんだちの客僧也。 一 間の出たち、木葉てんぐ也。狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。水衣にてもきる。扇をこしにさし、つえをついて、弐人らんじやうにて出る。かしらにはもうせんづきん、いろはあかきにてもきる。面はうそふき、けんとく、此二まいを二人きて出る。出たちは壱人は水衣もよし。 一 たいこらんじやう也。間のきりのうたひも、たいこつゞみにてはやす也。 一 能は。 一 弐百五 七夕 天竺の能。 一 わき、かんぶていに仕へ奉るちやうけん。ぶていのせんじにより、てんじやうのありさま見て参れとの御事により、天上へ上るとのなのり也。 一 間の出たち、みやうじやうのほしに成て出るにより、下に赤色のあついたをきて、きやうげんばかまの前をとり、こしおび計して、うへに又赤色のあついたをうちかけて、両つまをとつてこしにはさみ、すへひろがりをもちて、らいじやうにて出る。面てはけんとくなり。かしらには赤きしやう〳〵ひのづきんをきるなり。あかきあついたなくは、あかきものを下にきて、うちかけはあついたをきる也。間のきりのうたひをも、たいこつゞみにてはやすなり。 一 たいこはらいじやうなり。間のきりもはやす也。 一 能は。 一 弐百六 玉嶋川 つくしの能。 一 わき。 一 間の出たち、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇をこしにさす。 一 弐百七 こもり 大和よしのにての能。 一 わき、大臣わき也。 一 間云ものゝ出たち、きやうげんばかまの前をとり、つぎすわうをこしおびにてきて、扇をこしに指也。 一 弐百八 野口判官 一 わき、奥州高だちより出たる僧也。間云ものをよび出す也。 一 間云者の出たち、玉嶋河の間云者の出立と同前也。扇もこしにさすなり。わきの僧よりよび出す也。 一 此能、間のうたいなく候間、間をば木葉てんぐに成て申度間なれども、能のきりに木葉てんぐども出で申候間、かたり間也。皆人不審仕候はゞ、このことはり可申者也。間過て、笛をひしぎて一せいをうちだす也。 一 能は。 一 弐百九 唐船 つくし箱崎にての能。 一 わき、箱崎殿也。 一 此はじめのあいしらいするものゝ出立、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇をこしにさし、たちをもつて、箱崎殿のともして出る也。後に唐の子どものともをしたるせんどうよび出す時は、たちをわきにおきてあいしらいに出る也。能はてゝ、わきのはこざきどのがくやへ入とき、又たちを右にもちて、わきのともをして入也。 一 たうの子どもの供をしてせんどうに成て出るあいしらいの出たち、下にあついたをきて、きやうげんばかまのすそをくゝり、袖なしをこしおびにてきこむ。 一 ふねをいだすくでんは、たうの子共弐人、一せいにて出る。そのさきにふねをはしがゝりよりしてばしらと間中ほどあいだをおき、ちとわきしやうめんのかたの方へよせて、ふねのともをすこし左へよせておく也。たうの子ども二人が跡に、あいしらいするもの付て出て、子ども二人のせて跡にともの方にのり、かいをもつ也。たうの子ども二人ながらふねより上りて、ふねおばもとある処のじゆんはしがゝりの左のかたによせかけて、かたぶけておく也。それは跡よりしての老人、日本の子ども二人さきにたてゝ、そけいくわんにんの出る時、ふねにかまや(ママ)うのため也。さてあいしらいのせんどう、舟をおきすまいて、上りてゐる。其時たうの子どもせんどうをよび出し、そけいくわんにんを尋候へと申時、かしこまつて候と申て、してばしらより二尺ほどさきへ出て、からことばを云時、箱崎殿のともしたる間しらいするもの、是はいかやう成人にてわたり候ぞと申時、その返答より日本のことば也。さて箱崎殿とくわんにんと言葉ありて、うたいに、たうとや箱崎の神もなふじゆうしたまふかと、うたふ。そのことばとひつ付て、たうのあいしらいのせんどう、いかに申候。一だんのおいてがおりて候。とう〳〵おふねにめされ候へと、くわんにんに申也。くわんにんにおふねにめされ候へと云わたして、ふねをなをしてほをゝ(ママ)ひきよいやうにしておいて、ふねにのつてゐる。さて、してのくわんにんと子ども四人とふねにのせて、間しらいのせんどうとものかたにのり、さてきりにうたい、ほを引つれてふなこどもとうたふ時、ほを引上げ、うたいはつると、ほをおろしてもちてがくやへ入也。がくやへ入時、ふねのへさきをがくやの方へなしてもちて入也。かやうのくでん、人にくわしく申まじきもの也。 一 弐百十 経政 山城都にん和寺にての能。 一 わき、おむろの御内、大納言そうずぎやうけい也。 一 間云者の出立、狂言袴の前をとり、扇((水))衣をこしおびにて着る。扇をこしに指て、云立を云也。云立をわきの出でぬさきに云か、又わき出てなのりてこしをかけてから云か、わきするものと云合て可仕者也。 一 此経政の云立は今春りうにはさらになし。観世流には定て此云立有也。 一 能は観世の能也。 一 弐百十一 いかりかづき 中国長門国はやとものうらにての能。 一 わき、都がたより出たる僧、弐人出る也。西国がたへはじめて一見にくだる也。 一 間云ものゝ出たち、つねまさの云立を云ものゝ出たちと同前也。この間定て間云ものより出る也。中入に間云はてゝから、大ふね一さうとまをふきて持て出て(○印あり)、ふねのともにいかりをうち申也。此ふねは間云ものはもちて不出、よのもの、間云ものゝ出たちのごとく出立て、もちて出る。則其もの、とももりのとまをとれとうたふ時、ふねもちて出たるもの、とまをとつてのけて、後に其ふねをもちてがくやへ入也。 一 ふねのうちにはとももりと、せんていによういんと、にいのあまと三人のる也。 一 弐百十二 雲雀山 紀の国ひばり山にての能。 一 わき、横萩の右大臣豊成、ひばり山へ御狩に出給ふ也。 一 間の出たち、いかにもかる〳〵と下ぎをきて、せこのもの三人ほど、みぢかきだうふくをきて、何なりとも頭巾をかぶり、ほうしが母にもちて出るやうなる篠の葉もちて出る也。 一 たかじやうの出たち、それも下ぎをかる〳〵ときて、きやうげんばかまのすそをくゝり、こしおびをもせず、ゑぶくろを右に付て、たかのぶちをみぎさし、たかをすへて出る。犬やりもたかじやうのごとくに出立、頭巾は丸頭巾也。たかも犬も作り物也。 一 わき出て、次第道行過て、言葉に、わきはひばり山へ付て、御急にて候程に、紀国ひばり山に御着にて候。暫此処にておんたかを遣はれ、御こしちこうものかずをさせられ候へと云て、わきもみな〳〵わき座へなをる時、せこのもの三人、ほうとへ〳〵と云て出る。其跡に犬やりが作物の犬をつえにてさきへ行やうにつきやりてゆく。其跡にたかじやうたかをすへて、せこのものも一二へんほどぶたいをまはりて、たかをあわすると、せこのものも犬やりも、あゝとつたぞ〳〵と云て、下にゐる。其時合せたるたかを、たかじやうたかをとらゑてまるをくまふと云て、たかをもちてがくやへ入。其時狩人も犬やりも犬をだいて、たかじやうの跡にばつくとがくやへ入也。 一 弐百十三 らいでん はじめはゑいざん、後都禁中にての能。 一 わき、ゑんりやくじのざすぎしんくわしやうより十三代、ほつしやうぼうのりつしそうじやう也。 一 間云ものゝ出たち、狂言ばかまのすそをくゝり、水衣をこしおびにてきる。扇をこしにさし、がうしぼうしをかぶりて、つえをついて出る。中入は、してのうたいに、くわゑんはきゆるけぶりのうちにたちかくれ、せうじやうはゆくへもしらずうせにけり〳〵。是中入也。はやつゞみにて出る也。 一 はやしは、はやつゞみにて出る也。 一 能は。 一 弐百十四 けんじやう 津の国須磨の浦にての能。 一 わき、大じやう大じんもろながのきやう也。 一 間の出立、きやうげんばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。此云立には扇をもちて出る也。たゞしこの云たて、わきよりさきに、はやし出てから出るか、又わき出てわき座になをりてから出るか、わきするものと云合すべき者也。 一 能は。 一 弐百十五 小鍛冶 山城都三条にての能。 一 わき、三条のこかぢ宗近也。 一 一説には、わきは一条院につかへ奉る橘のみちなりのきやうと、ちよくしなれば是をわきと云節(ママ)も在り。 一 間の出たち、きつねの末社なれば、狂言ばかまのすそをくゝり、かき色の水衣をこしおびにてきる。面はけんとく。づきんはかき色のもうせんづきん也。しぜんかき色のもうせんづきんなくは、かき色の丸づきんにてもくるしからず。中入はうたひに、いなりやま行衛もしらずうせにけり〳〵と云中入也。間、扇をこしにさし、つえをついて、はやつゞみにて出也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は金剛の家の能也。 一 弐百十六 粉川寺 紀国こかわぢにての能。 一 わき、こかわぢの住僧也。 一 間の出立、のふりき也。きやうげんばかまの前取り、水衣をこしおびにてきる。扇をこしにさし、くろきかますづきんをきる也。 一 能は。 一 弐百十七 玄奘三蔵 てんぢくりうさ川にての能。 一 わき、大唐れんがんじの住僧げんじやう三蔵法師也。 一 間の出たち、うろくづのせい、きやうげんばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。面はうそふき、かしらはもふせんづきん也。扇をこしにさし、つえをついて、はやつゞみにて出る也。中入はうたひに、夕浪のみぎわ成、るりの面をはしるがごとくにさら〳〵と、むかいに渡り、玄奘よまち給へと云すてゝすがたはうせにけり〳〵とうたふが中入也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は。 一 弐百十八 実方 あふしうみちのくの、ちかのしほがまのうらにて能。 一 わき、鳥羽院の北面侍佐藤兵衛のりきよ、なかば出家して、其名を西行法師と付、諸国しゆぎやうして、ちかのうらを一見して、村上のてんわうのぎやうの人、さねかたの卿あふしうにながささ(ママ)れ、このちかのしほがまのうらにてはて給ふ。その旧跡を西行尋ね申さるゝ間、出ておしへ、又中入の時、間云ものより出る也。 一 間の出たち、狂言ばかまの前をとり、かたぎぬをこしおびにてきる。扇をこしにさす。旧跡を西行尋時、出ておしゆる也。わきと供して出也。中入のうたいに、あだなる夢を見るやとて、草の枕にふしにけり〳〵。是中入也。 一 能は。 一 弐百十九 広元 奥州の能。 一 わき、安原の豊後守也。 一 間の出立、実方のあいしらいするものゝ出立と同前也。わきするぶんごのかみとつれだちて出る也。又つがるの太良時則のあいしらいに出る者も、同じ出たちのあいしらい也。少の間しらい也。 一 能は。 一 弐百廿 楯尾 九州肥後国の能。 一 わき、菊地の御舎弟藤左衞門の御内の人、たてをの何がし也。 一 間の出たち、さねかたのあいしらいするものゝ出たちと同前也。たてをの何がしとつれだちて出て、千若の御ふくろかたへ、たてを案内申され候時出て、たてを参られ候と御ふくろへ申也。中入はうたいに、はゝはすご〳〵とみおくりて、なくよりほかの事はなし〳〵と云中入也。 一 中入の間出たち、きやうげんばかまのすそをくゝり、かたぎぬをこしおびにてきる。まうせんづきんきて、右のかたをぬいで、かたなをきつぱにさし、つえをついて、はやつゞみにて出る也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は。 一 弐百廿一 信夫 越前国の内にてなをいの津にて能也。 一 わき、松が崎兵衛と云宿ぬし也。たゞし松が崎しゆごじん、いたばしどのか。 一 間、なをいのつの宿ぬしの遣はるゝうちのもの也。あいしらい在りて、大(ママ)良二良をふねにのせて、まつがさきの兵衛が処へうりにいて、おとゝい兵衛に渡すなり。出たちは、さねかたのあいしらいするものゝ出たちと同前也。又いたばし殿のかりに御出で候いつち(ママ)の跡に、狂言ばかまのすそをくゝり、扇((水))衣をこしおびにて着て、右のかたをぬぎ、大わきざしをさし、かりつえをもちて出て、一せい過て、しのぶの太郎次郎をみつけて、いたばしどのへつぐるもあり。又此役は立衆もいたすやく也。 一 能は。 一 弐百廿二 雪頼朝落 みのゝ国の能。 一 わき、はじめはうかいのぜう也。中入の後はみのゝ国の住人小野の十郎高藤(ママ)也。 一 間のの(ママ)出たち、くずの能のあいしらいの出立と同前の出たち也。かたぎぬのみぎのかたをぬぎ、刀をきつぱにさし、一人は弓、一人は鑓りをもつて、はやつゞみにて出る也。中入はうたひに、ぜうがいをりにかへりけり〳〵とうたふ中入也。 一 はやしははやつゞみ也。 一 能は今春の能也。 一 弐百廿三 鞍馬 則くらま寺のおく僧正が谷にての能。 一 わき、くらま寺の住僧也。 一 間の出たち、狂言ばかまのすそをくゝり、そでなしをこしおびにてきる。面はうそふき、のぼりひげ、けんとく、おうじの面もくるしからず。はやしはらんじやうにて出る。扇をこしにさし、皆々つえをついて出る也。 一 たいこらんじやう也。能のきりにもたいこ在り。 一 能は。 右之出立之様子、能々覚候て可仕者也。此外之秘密者則慥に口伝申渡処実正也。能之あいしらいのくらい、間のはやし、脇之してとのせりふ、太夫とあいしらいのくらい、間のはやしの事、山城天神森の薪と申所に、一休和尚御座候時、観世之太夫ぜあみ、今春太夫ぜんちくむこしうとにて御座候。即ぜんちくは観世の世阿みむこ也。万事能々様子和合在て、其くらい〳〵を定被置候より此かた、すこしも私こ(こ)れなく候。他流に仕事皆此事に候間、少も御似在間敷者也。殊に狂言などは仏法を引請、手にはりくぎをもつて仕事に候間、そのこゝろへ肝要也。 間之出立脇付事書  已上弐百弐拾三番 不流之出立  已上拾五番 弐口合弐百三拾八番也。 紙数百六拾八枚。 右之書付、吾等従拾二代余、代々秘所之習なれば、書付候へば自然取落、他人之見る事も候故、以口伝習来り、胸之内に納候事に候へ共、当代は次第〳〵に諸芸習おとり候間、我等代に書付口伝迄相伝仕候事実正也。直子之外に書付具に相伝仕事、努々在間敷候。如此書付不残他人に自然相伝仕候はゞ、家之秘所に成間敷候間、他人には言葉以心持、自然は相伝可在歟。不残書付相伝之所は努々在間敷者也。以上。      大蔵弥右衛門尉(丸黒印)  寛永拾六暦      卯の十一月吉日 (黒印) 虎清(花押)     同八右衛門尉殿参 右此弐百三拾八番之外に、間之本に如此之出立、めんのいろ〳〵書付申候間、其心得可有也。我等家には代々か様に仕付、れき〳〵の太夫どのたち、わきのして、はやしの衆と、我等代迄、仕付少もちがい不申候間、此書付にちがい申候はゞ、みなひがごと可為候間、りんぜつをもつて仕る事、少もにせ申間敷者也。以上。              大蔵弥右衛門尉(黒印)  寛永拾六年      卯之十二月廿六日 (丸黒印) 虎清(花押)     同八右衛門尉殿まいる  大蛇 中入乱序也  間、壱人、出雲国鳥上峯木の葉精也。  出立、末社の通り也。但し面空吹。  鷺 口明也。  間壱人、出立、絃上の間の通り也。  胡蝶 中入。  段のしめ長上下。  藤 同断。 鴻山文庫(朱印) 解題 『大蔵虎清間・風流伝書』  鴻山文庫蔵。一冊。八右衛門文書。『鴻山文庫蔵能楽資料解題』下(整理番号五〇1)によって、はじめの書誌ならびに内容解説のうち、必要な部分を引く。  列帖装の横本(160×188)。表紙は共紙。外題・内題なし。桐箱・帙入。料紙は斐紙。墨付一六八丁。片面十四~十六行。桐箱と帙に「風流十五番/間二百弐拾三番/寛永十六年/大蔵虎清花押/同八右衛門へ伝」とある。安田文庫の朱印あり。 《内容》大蔵流の間狂言・風流の覚書。本文と十一月識語までは一筆だが大蔵虎清の筆ではなく、相伝された清虎筆か。虎清自筆は震えのある最後のもののみ。ただし、〈大蛇〉以下、巻尾の四曲は別筆。目録は間狂言・風流の順序になっているが、本文は風流・間狂言の順である。風流十五曲・間狂言二二三曲(〈輪蔵〉重出)の装束付と出入りのきまり・囃子とのかかわりなどについて記す。風流の各曲に千歳の風流・三番三の風流の別を注記する。この種のもののうち、年記が明記されるものとしては最も古く、風流の実態、間狂言の演出、狂言側から見た能の演出を考察するための必須の資料である。末丁識語裏に別筆で間狂言四曲分の装束付が書き加えられているが、これは目録にはない。〈知章〉は目録に何かを訂して「じどう」とし、〈調伏曽我〉を「ふしきそが」とするが誤り。〈木曽巻数〉は〈木曽願書〉である。この本の影写本が能楽研究所にあり、表章「寛永十六年の『間ならびに風流伝書』について」(野村家『狂言』4、昭和30・6)はそれを紹介しつつ、この本から得られる知見を述べる。  以上が引用である。奥書に黒扇型印・黒丸印がある。この黒扇型印は製本した後、各丁移りの間の、上または下にも押されている。第一丁の表右端の上下に黒扇型印がそれぞれ半分押されているので、第一丁の前の紙が失われていることが分かる。ここは目録部分で、「一 たかさご」以下内容は完備しているので、表紙がここに綴じられていたのであろう。  表章論は有益なので、それを略抄して引く。  風流の方は、出入に際しての順序、囃子などについても記されてはいるが、まず装束附と言ってよい内容で、(曲名略)の十五の風流で、古本能狂言(岩波書店)に収められた「風流の本」に較べるとかなり曲数が少い。装束附の内容も「風流の本」にしるされたものとは必ずしも同一でない場合もあるようである。  間狂言は総計弐百二十三曲で、輪蔵のみが重複している。はじめに脇能、ついで修羅物と並べられているが、さほど厳密には区別されておらず、三番目以下は混在している。この二百番余りが、当時の大蔵流狂言方で演じた曲目のすべてでないことは、古本能狂言集所収の「間」の本に見える葛城賀茂・猩々・河原太郎・貞任・厳島などが本書の曲目に見えていないことから推察されるが、まず大体はこの本で足りたものと思われる。(例省略)間の装束附を中心に、出入のきまり、能についての説明、能の流儀別などを記するにとどまり、間の語りは書かれていない。ただし、アシライ間の場合には、おのづとセリフや他の演者との応対にも言及し、曲の演出について研究する際の好資料となる記事が少なくなく、概して語り間より長い。(〈石橋〉の囃子についての幸小左衛門との論争、〈朝長〉の義朝一族の動静などに触れる。略)その他、現在では廃曲となっている曲がかなりの数に上るので、廃曲の演出研究という面からも好資料となるであろう。  間の装束そのものの研究、及び間狂言の形式上の諸問題の研究の上では、本書の価値は他に比肩するものがあるまい。  この後、例に引いた〈弓八幡〉から、一、〈弓八幡〉に末社形式の間も存在した事、二、「もうせん頭巾」の事、三、「らんじやう」と末社来序との関係の事などの問題点に注目している。  三頁の小論ながら、全体の見通し、問題点のありかなどを指摘して遺漏がない。驥尾に付して、少々気付いた事を敷衍しておこう。 一 虎明本と本書との収録曲の問題。 1、風流  表論に風流は古本能狂言に収められたものより数が少なく、装束付も必ずしも同一ではないとの指摘がある。虎明本の「風流之本」は、池田広司・北原保雄『大蔵虎明本 狂言集の研究 本文編』下(表現社、昭58)に翻刻され、『間・風流伝書』の該当曲も、各曲の後に、「注」として翻刻されているので、対照に便である。それによれば、虎清本にあって、虎明本にないのは〈橘一人の風流〉のみで、他はすべて虎明本に含まれる。虎明本の風流曲数は三〇曲なので、虎清が書き留めたのは約半分ということになる。ただし、虎明本のうち、〈松・竹、延命地蔵、八幡、春日、弁財天〉の五曲は虎明作、〈布留〉は道倫(虎清)作と注するので、この六曲を除くと、差は十曲となる。その中で、虎清にあってしかるべき曲は、〈三社の風流〉(虎明は、「宇治の弥太郎、多武の峰にて作ると、古本に有」と注する)、〈夷の風流〉(虎明注、「古本に云」)の二曲である。〈三社〉の方は多武峰様の具足を着けての風流だから、上演が稀で省いたとも云えるが、〈夷〉が収められない理由は分からない。  虎明の演能記録を網羅された橋本朝生「大蔵虎明上演年譜考」(『続狂言の形成と展開』瑞木書房、平24)には、次のような橋本氏の分析が載せられている。  狂言風流は前述の通り鷺流による上演が多く、虎明の記録はない。虎明周辺でも、虎清シテの〈鶴亀の風流〉〈餅の風流〉(いずれも虎明は〈三番三〉)、清虎シテの〈松竹の風流〉、そして堺七堂浜勧進狂言で五日目まで毎日演じられたのが見えるだけである。(田口注、明暦元年、曲目は、〈松竹、餅、蟻、大黒、碁〉)。もちろん伝承はされていた。寛永一二年に山脇和泉(元宜)山脇五郎左衞門(元永)より「風流五番」の相伝を受けたらしく、その際の「神文」が山脇和泉家の『狂言由緒略書』に載せられている。  この上演傾向からすれば、虎清は本書所収十五曲でよしと判断していたのであろう。  五〈しやうれうちのふりう〉の「しやうれうち」は清音とした。虎明本には、「しやうれうぢ」(目録)、「しやうれうじ」(本文標題)、「しやうれうぢ」(本文)と表記され、虎明は「しやうれうぢ」と濁っていた。能楽研究所蔵『和泉家風流伝書』(笹野堅影写)では、標題「志屋宇利屋宇地」、本文「しやうりやうち」で、濁っていない。同じく能楽研究所蔵『風流』(鷺流、笹野堅影写)では「青龍池」と漢字を宛て、本文に「唐土の青龍池に住大しやう」と名乗っている。本書の翻刻では「ち」を清音とした。その理由の一つは凡例にも記した通り、目録における清濁の書き分けによれば、これは清音であること、その二つは、漢字を宛てるとすれば「清涼池」であろうことである。鷺流『風流』では「青龍池」とし、この「大しやう」は青龍であるような印象を受けるが、これは龍ではない。龍ならば頭に龍戴を戴くはずなのに、諸書すべてそうではないからである。青龍は音の類似による宛字というべきであろう。一方、「清涼池」は仏教語としては大智度論以下用いられる語彙であり、典拠不明ながら、そこに居る「大将」が剣と経を持つというのも納得できることである。「池」ならば清音で良い。虎明は「地」と解したのであろう。  その他、風流についての問題点は、二・三・四・六・七・八・九まで「さんばさう・三番三」と表記してきたのに、十二・十三は「三番神」と表記していることである。特に意味がないのか、伝承経路が違うのか、未詳である。 2、間狂言  『古本能狂言集』(大蔵弥太郎編『大蔵家伝之書 古本能狂言』による)所収の間狂言は脇能二一曲、修羅一七曲、鬘二八曲、集二一曲、それに「萬集類」に収められたもの三六曲(ただし、この「萬集類」は、伝承経路が異なるらしく、演出も異なり、曲としては本編との重複がある)となる。「萬集類」を含めても総計一二三曲に過ぎない。関屋俊彦『続狂言史の研究』所収の『大蔵虎明間之一本』「萬」「謳」は、万治三年(一六六〇)に弥右衛門虎明が大蔵長吉に相伝したもので、もと三冊、現存二冊、「萬」に一〇七曲、「謳」に四七曲、計一五四曲を収める。もう一冊が発見されれば、さらに曲数が増すであろう。この虎明の手に成る二種を総集して『間・風流伝書』の収録曲名と比較してみよう。『古本能狂言集』については、表論に指摘される〈葛城賀茂・猩々・河原太郎・貞任・厳島〉の外に〈誓願寺・巴・那須与一・伏見〉の四曲が『古本能狂言集』にあって『間・風流伝書』にないものである。ついでに言えば、『間之一本』との間では、さすがに収録曲数が多いだけに、『間・風流伝書』に無いものは〈綾鼓・烏帽子折・会盟・現在熊坂・高野敦盛・斉藤五・桜間・獅子・関原・草子洗・大施太子・千引・反魂香・比良・二人祇王・二人静・室君・竜虎・籠祇王〉の一九曲にのぼる。逆に、『古本能狂言集』・『間之一本』の二種に無くて、『間・風流伝書』にあるものは、〈熱田・嵐山・鵜祭・江野島・大社・大蛇・春日龍神・九世戸・鞍馬・玄奘三蔵・源太夫・小鍛冶・粉川寺・実方・信夫・白鬚・西王母・誓願時・第六天・玉ノ井・経政・道成寺・東方朔・難波・寝覚・白楽天・氷室・松尾・和布刈・矢立賀茂・雪頼朝落・養老〉の三二曲にのぼる。以上は「萬集類」を除いて比較したものである。『間之一本』の一冊があれば、この数は減少するであろう。それにしても虎明の本にあって、虎清にないものが存在するのは面白いことである。  『間之一本』は『古本能狂言集』よりも『間・風流伝書』の記述に近い事に触れておこう。『間之一本』は標題曲名の下に注記がある事が普通だが、その注記には『間・風流伝書』の記述と同文的なものが多い。例えば「萬」の〈大般若〉には「天ぢく」として《わき、大唐のれいがんじの住僧。三蔵法師渡天し。大はんにやをしんだんにわたさん為也。「中入すがたはうせにけり〳〵」》とある。より詳細な例としては「萬」〈吉野静〉には、《わき佐藤たゞのふなり。一ばんあれは。忠信と閑と出てもんだう有て。閑うたひに、かつての御ぜんに参りけり〳〵 閑中入也。こゝにて間出る也。又まへなくしてなれは。たゞのぶばかり出て、「大かうだうに出てしゆとのせんぎをきかばやと存るといひて、太こうちの所へはいる時、間出る也》とある。比較してみれば、卅三〈大般若〉、百六十四〈吉野静〉との同文性は明かである。虎明も『間・風流伝書』の一本を所持していた可能性がある。  なお、伊藤正義「『能間・作物作法』―神宮文庫本間狂言資料―」(「文学史研究」19、昭54・8)は一七〇曲あまりを収めているが、本書と重なる曲が多い。その解説の中で、主要問題点として、替アイ・アイの別演出、作物について指摘がある。  まず、「替間が、通常の間として記されている」ものが〈賀茂・白髭・嵐山・大社〉を挙げている。本書の〈矢立賀茂〉も「田うへ」が本則で、「人数なき時は、末社にする」と言う。〈白髭〉も道者が出る演出で同じ、〈嵐山〉は末社と猿聟の演出で同じ、〈大社〉も神主と巫女が出るので同じである。ただし、〈志賀〉は「居あひ」と「かくら」と言うが、本書は、おそらく語りアイと「末社」で神楽は無い。その他、所謂「替間」とされているもので、本書が通常の間としているものは数多く、少例を挙げても〈江野嶋〉・〈絵馬〉・〈玉ノ井〉・〈東方朔〉・〈輪蔵〉などがあり、それぞれ「道者」「鬼間」「貝尽し」「桃仁」「鉢叩」に相当するものになっている。  次に〈三輪〉が立ちアイであること、本書も「かならず立間也」と言い、同じである。 また〈藤戸〉で「ワキきやうけんへ云付、口あけあり」に注意されるが、本書ではその部分がワキと談合すべきこととして詳しい。作物は〈白髭〉の舟が共通する。  以上、伊藤氏の指摘される主要問題点には本書と共通することが多く、江戸初期のアイ演出を探る上で、本書は同様に重要な存在であることが分かる。また、『能間・作物作法』に年記がなく、伊藤氏は「江戸時代ごく初期」と判断されているが、本書によっても江戸初期を下らない書と言うことができよう。 二 表論の中に「もうせん頭巾」のことが指摘されている。本書に数多く用いられているが、末社・仙人などが被っている。「末社頭巾」の語は見られないので、消去法で行けば「末社頭巾」のこととなりそうだが、どうであろうか。  装束付としての本書には、おもしろい記述が多いが、冠り物だけでもいろいろな物があり、六〈もちのふりう〉には「もうせん頭巾すき頭巾」(これが並ぶ例は多く八〈東方朔〉など)、十二〈養老〉・五十四〈春日龍神〉に「かます頭巾」がある。これらも寡聞にしてその意味を知らない。百四十〈酒天童子〉・百七十三〈正尊〉・百八十四〈紅葉狩〉には、女の「びらりぼうし」がある。一方、九〈矢立賀茂〉には「びなんぼうし」がある。この両者は同じもののように思え、おそらく「美男帽子」の事と推察されるがそれでよいのだろうか。六〈白鬚〉・六七〈道成寺〉・百廿九〈是害〉に能力のかぶる「がうしぼうし」が見える。これは後のものだが、鷺定好の『鷺流間装束付』に「強子帽子」と見え、『能楽大事典』では「能力頭巾」の項に「強師頭巾」とも書いているのがこれであろう。 三 その他の問題 1 能の流派  本書では能の流派を記すことを原則としたらしく、必ず「能は」として流派を書くように設定している。そのうち、金春流(ほとんど今春と書く)・観世流は確かであって、今春・観世を対比して、その演出を記すものもある。例えば五十四〈春日龍神〉のような詳細な説明は、おそらく秘伝だったのであろう。金剛流は九十一〈飛雲〉・百卅〈熊坂〉・弐百十五〈小鍛冶〉。宝生流は五〈みもすそ〉に「宝生の能といふ」と伝聞の形で記すものと百七十五〈常陸帯〉で少い。虎清の出演記録と照合しなくてはならないが,問題は「能は」とするだけで、流派を記さないものが多数に上ることである。金春座に所属しているのだから、当然「今春」と記されても良いような曲でも記さないものがある。例えば八十七〈初雪〉は「禅鳳之夢中之五番之内」と称せられるもので、「能は今春」とあって然るべきものだが、記されていない。執筆時には確認できず、後記を期したということであろうか、疑問である。 2 記事の繁簡  ワキ、アイ装束、能流派の三つを簡単に記す曲も多い中で、突然詳細な記事を持つ曲もある。最も力を入れて記したのは百九十四〈石橋〉である。これは本書付録一、二ともに一項としているほどだから、虎清にとって最大の問題であったらしい。『わらんべ草』八十九段にも同じく長文の記事があり、『近代四座役者目録』の虎清の項にもその論争が記されている。本書と『わらんべ草』は同文に近いのだが、すでに指摘されているように、論争の主体が本書では虎清、『わらんべ草』では虎明になっている。本書の口ぶりから見ると、直接の当事者は虎清で、虎明は同席していたと見てよいだろう。単純な違いとしては、台徳院時代、演能後、本書では「三十日計後」『わらんべ草』では「四五日」となっている。大きな問題としては、本書では虎清が幸小左衛門に対し、悪口雑言と言ってもよいような表現をしているのに対し、虎明は「予おぢの事なれば、遠島仰付られたり共、重而は御侘事申上べし。然らは御免被成被下候やうにと申上しを」と、小左衛門を庇ったとするところである。寛永十三年時も、本書では幸小左衛門が蒸し返したとの趣旨だが、虎明は「誰にても申出したる方、理非によらず遠島」と命令されたのに対し、虎明が反論したとの趣旨になっている。  虎清の性格を偲ばせる記事が百四十五〈邯鄲〉にある。廬生を起こすことについて、「せけんにおこしやうにならいのあるよし、たはごとをつく。それは能も何もしらぬものゝ云たはごとなり。はや能のはてざまに、せりふの一じ長も、はてざまにくらいのびにて、能のこしぬくるによつて、ことばのいふやうさだまるなり。さやうのたわごとをいふ太夫、でくるぼうにてあるべし」と言う。「たはごと」と言い、「でくるぼう」と言う。伝書らしからぬ激しさである。  表論も触れる五十三〈朝長〉は「懺法」の事、義朝一族の動静を詳しく描く。虎明本の〈朝長〉にも長文の注があるが、出典は異なる。本書の記事後半で、平家の「宗盛」とするのは「清盛」の事と考えられるが、なぜそうなったのか、また、拍子のことらしいが、「くもかみのひやうし」「こんのひようし」「たけのみぢかき四てうのうち」などの表現は未詳。  五十四〈春日龍神〉に「へんとつ」を着ることについて、面白い記事がある。「へんとつをきる事、むかしよりちうこうまで、町人のおとこも、かすがへ参時も又寺中へ出る時も、はかまをきて、へんとつをきて出申候故、殊に間に出る時はへんとつをきる也」。奈良が地元の虎清らしい情報である。  六十七〈道成寺〉も長文だが、「今春の能に一入賞翫の能」で、禅竹が世阿弥に相伝したこと、その時代に世阿弥・禅竹・禅鳳・四郎次郎・金春源七郎・観世座の万五郎が寄合って狂言の位を定めた事など、伝説的歴史が語られる。 3 「正本」の存在  虎清たちの手もとに「正本」と称する「間の本」が存在したことが、百十〈船弁慶〉・百五十九〈望月〉・百七十八〈融〉・百八十五〈車僧〉・百八十九〈藤戸〉に見える。習・大事の能について正本の存在が確かめられるのだが、〈車僧〉は「間を長とあらば正本のおく書に有事をいふべし」というのであって、虎明本の注的なものが虎清の正本にも「奥書」として書き加えられていたことが推量される。またなぜ「間を長く」する必要があったのかは、五十三〈朝長〉・百廿三〈雨月〉などに「太夫の出たち・こしらへ」が遅くて時間が必要だった事が記されている。 4 狂言役者の仕事  狂言役者が作物を作り、運搬していたと考えられる記事がある。現在でも〈道成寺〉の鐘は狂言方が運び、設置するが、九十六〈調伏曽我〉で護摩壇を運び、九十七〈蝉丸〉で藁屋を運ぶ、あるいは八十〈殺生石〉で「払子のこしらへよう」を記している事など。 5 用語の説明  文中で用いられている言葉を説明することがある。 卅一〈大社〉「いちどのと云はみこの事也」(伊藤論で、「市殿」に?マークが付してあるが、これで巫女の事と判明する)。百二〈壇風〉「はやつゞみとはとぶ〳〵とうつ小つゞみのことなり」。百四十二〈班女〉「宿〳〵の昔の人宿は長者とも一字に長共いふ也」など。 6 ワキとの対応 廿九〈金札〉「わけをしらぬもの神主(田口注アイ)をふしんせば、ふし見の翁のしそんと申さんがため書付也」。五十五〈八嶋〉「わきより、なすの与市扇をいたる所、所望する事あり。それは所定申也」(本来は臨機の処置だったが、この時代には定まっていた)。百六十八〈安濃〉「わきよりふしんする時のため書付也」(「あこぎ」についての説明を詳細にしてから)。 7 その他各曲から  『わらんべ草』八十九段「間之習之有事」と本書は重なる記事が多い。一々に注しないが参照されたい。  六十七〈道成寺〉に「一もんじの能」という言葉がある。役者が「一言もわたくしこれなきやうに仕る」べき能だという趣旨であろう。  七十七〈初雪〉に「わきはあいしらいする夕ぎりと云う女成べし」と言い、次に「間はゆふぎりといふ女也」と言っている。これはアイ夕霧がワキ相当の役割も演じるとの趣旨であろう。『未刊謡曲集』二十三所収の〈初雪〉(異本)は冒頭が「住吉の神主殿に仕申者」と「夕霧」の問答で始まるが、この問答はアイ口開けで語られる内容を二つに分離したものである。もともとワキの無い能なので、本書のように理解するのが妥当である。なお、『未刊謡曲集』の宝山寺本翻刻で「所(所)難読」々の上らふたち」とするところ本書の「との〳〵の上臈たち」を参照すれば「殿々」とすべき事になるが、能楽研究所所蔵の写真で確認すると「殿」字であった。  九十二〈第六天〉解脱上人の葬礼の争いを詳細に記し、「是に付て子細あり」とするが、アイが語るべき内容とは思えず、理由不明。  百四十〈酒天童子〉「がく屋へ入ざまにのふりきが女をあふてゐるなり」。女を背負うことは江戸初期の狂言の演出には見られるものだが、アイにも存在していた。  百八十一〈大仏供養〉観世左近代にアイなしに定められ、「やすみに成候間だまり申候」と言う。『間之一本』にも『貞享松井本』にも収められているので、アイ無しは臨時の措置か。  百八十七〈海士〉「間よいころに候はゞ、くわげんの役者をのぞまずともくるしかるまじく候」。能〈海士〉の詞章では「いろいろの善をなし給ふ」のみで、管弦講のことはワキとアイの問答で設定される。能の進行がよければ管弦の役者に集まれと触れなくてもよいと云うことであろう。  弐百九〈唐船〉「ふねをいだすくでんは」として詳細な型付があり、「かやうのくでん、人にくわしく申まじきもの也」と付記する。口伝のありようの参考になる。  弐百廿二〈雪頼朝落〉「わき、はじめはうかいのぜう也」とするが、『未刊謡曲集』十五所収〈雪頼朝〉によれば、これはシテ。頼朝をシテと見たか。なおその解題には「大蔵虎清本間狂言(古本能狂言集三所収)の「雪」は本曲の間らしいから、本曲は「雪」と略称されたこともあったかもしれない」とあるが、それは「萬集類」の〈雪〉で、「義朝、義平」が登場する。〈雪頼朝落〉は義朝にはぐれた後の頼朝を描いているので、設定が違い別曲である。 8 注目すべき語彙いくつか  解決ずみのものも併せて、注目すべき語彙をメモしておく。冠り物の類や〈朝長〉に見える拍子は前に記した。 「だてなる」九〈矢立賀茂〉など。特に勧進能などのときに着る装束など。 「じやくはいなるかみしも」「こゆいゑぼし」十五〈嵐山〉の聟猿。 「おどりふへ」卅一〈大社〉シャギリの事であろう。 「みつがなわ」七十五〈藤永〉鼎の足のように、三点に対すること。 「ひようる」七十八〈采女〉未詳。 「きつぱ」八十五〈馬乞佐々木〉ほか。刀の刃の部分を上にする事。戦いに備えた刀の指しよう。 付録一『しきさんばんあいきやうげん』  凡例 一、『大蔵虎清間・風流伝書』の凡例にしたがうが、濁点については底本に多く付されているので、補わず底本の表記に従った。濁点があるべきところでも、ママの傍記をしない。  しきさんばんあいきやうげん しきさんばん、あいきやうげん、むかしよりひでんのところさうでん、いへのそうりやうに、だい〳〵さうでん仕事に候へとも、大やけのわたくしおもつて、われらさうでんうけ申しだいの事。  しきさんばんの大事。 一 せんざいふる、しだいの事。 一 さんばさう、たちかしらの事。 一 さんばさう、たつときのことば、おうさい〳〵おうといふ、口中のたいじの事。 一 たちかしら、おうつゞみのかしら、二神〳〵一神の事。 一 たちかしら、しらするとき、きざみの事。 一 しきさんばん、たちかしらうち、そのくつかふりの事。 一 しきさんばん、ふへのくつかふりの事。 一 しきさんばんのうち、ふへのおろしところの事。 一 しきさんばん、三日のまいやうの事。 一 すゝのだん、しうぎの事。 一 しきさんばん、はじまりの事。むかしは六十六ばんのおきななり。此おきなのしきさんばんになおる事、しやうむてんわうのぎように、六十六はんのおきなにても、しきさんばんになおしても、天下のきたうよき事なりとて、しきさんばんにさたまり申ところ、しつしやうなり。 一 きやうけんのはじまりの事、そのむかしもありたるとわ申きたり候といゑとも、そのぬしをしらず。まつ、きやうげんのはじまるところ、ひゑいざんよりいてたり。其ゆらいは、ゑいざん、ちごほうしにいたるまて、かくもんをこととし、せいりきをつくし、いさむことこれなきゆへ、げんゑほうゐんと申人、かくもんもうとからず、ちへさいかく人にすぐれたる、さいかくぼうしにて、ちこほうしをなぐさめ、いよ〳〵かくもんなり申やうにとて、きやうけんというものつくりいたし、てらさふらいにつたへて、あるいはちこたちのみのうへ、あるいはほうしいげのみのもちやう、かくもんのよしあしも、人にそのわざをさせ、よそより、りひをわきまへさせんかために、つくりいたせるきやうげんなり。さあるによつて、きやうげんとはまことをくるうとかきたり。そのわざをにんみんつたへきたれるなり。ちうこうくわんぜのまん五良との、こんはる四良二良との、御りやうにん、これをあらため、しな〳〵をつくりそへられ、あるいは大みやうの御みのうへ、あるいはしゆつけ、あるいはふうふのあいたのこと、あるいはあきんど、あるいはひやくしやうなどのことを仕るきやうげんなり。さあるによつて、にんみんをなぐさめんために、きやうけん一ばんのうちに、おかしきことを五とか三とかいたすものなりと、まん五良との四良二良とのより、さためおかれたることしつしやうなり。さあるによつて、きやうけんの仕るやう太(ママ)事のものなり。其仕るやう、大みやうになつていてば、大みやうのまねになり、ことばしなをもそれ〳〵につかうものなり。あるいはふうふのあいたのしな〳〵、あるいはしゆつけのしな〳〵、あるいはひやくしやうのしな〳〵、あるいはゆうれいのしな〳〵、かんようのものなり。このこゝろをもつてきやうけんいたさば、それ〳〵のしなよかるへきとのさうでんなり。 一 あいしらい、まつしや、かとまふりのしんなとのいてやう、らんしやうらいしやう、太このうちやうさためおかれたり。小つゞみもとぶ〳〵のうちやう、はやつゞみのうちやう、のふのくらいによつて、うちわけやうさためおかれたり。 一 かたりあい、きやうけんよりいつるのふ、又わきよりよびいたすのふ、さだまりたり。 一 あいしらい、それ〳〵ののふのくらいをもつて、のふにさゝわりこれなきやうに、太夫をひさしくまたせぬやうに、あいしらうこと、かんにやう也。 一 わきののふなりとも、大じんも大じんにより、そのくらいをあいしらうべきものなり。 一 わきののふのいひやうのこと、又しゆらののふ、おんなのふ、おとこのふ、いつれもいひわけあるへきことなり。 一 御ぜんの御能にて、きりのしうげんのとき、わきののふのあいいひたるもの、いでゝあいしらうこと、さたまりたり。くでんあり。 一 しやつきようののふのあいのいつるとき、むかしはらんしやうにていて候を、じかよさゑもんとの、あふみのくわんおんじにて、六つかくとのゝ御まゑの御能のとき、太夫ではほんのらんしやうなれば、あまりおなしことなるとあつて、小つゞみにことわつて、とぶ〳〵にさためおかれ、とぶ〳〵のうちやう、三だんにまかりなり候。太夫をうちおくると、太夫まくへいりてと、又あいのいつるときと三だんなり。    右、大方たいてい、まつ〳〵このぶん、申わたすところしつしやうなり。これよりはしたい〳〵に申わたすへきものなり。このかきもの、一かきいつてんも、こともそうりやうのほかさうてん有間敷物也。    以上。                      大蔵弥右衛門尉虎清(花押) 寛永九年 申卯月廿七日          大蔵八右衛門にかゝせ申候。                          鴻山文庫(朱印)  解題  『しきさんばんあいきやうげん』  鴻山文庫蔵、一巻。八右衛門文書。『鴻山文庫蔵能楽資料解題』下(整理番号五一1)によって、はじめにその書誌を引く。  巻子本(172×1565)。銀地墨引き表紙。裏は白地金箔散し。左端に金箔を散らした白地小題簽を貼り、「しきさんばんあいきやうげん」と墨書する。軸装されたのは近代のことで、もとの紙長は117センチ。桐箱入。箱書に「しきさんばんあいきやうげん大蔵七通文書ノ内、一」と記す。料紙は厚手の斐紙。裏面に「天下一油煙/南都義継/黒津相模」の黒方印と安田文庫朱印がある。  以上が引用である。軸装前の外題・内題は無いが、同じ八右衛門文書(五二B3C)に次のようにある。    習末代之証文之書物之事  我等代々伝り来る家之習式三番神間狂言秘書秘芸惣領壱人之外相伝仕事努々無御座事に候へ共雖庶子親幸々々仕且は執心仕候故式三番神間狂言万事習少も無残所念を入相伝仕事実正也か様之書物代々其親々より一子に書渡し申間秘書秘芸所は一子之外に努々他言有間敷者也仍如件 (黒印)  寛永拾七年三月廿六日          大蔵弥右衛門尉虎清(花押)   同八右衛門尉殿参  ここに記される「式三番神間狂言秘書」が本文書のことと推察されており、書名もそのように理解してよいが、ここでは軸装題簽によった。  本文書は『日本庶民文化史料集成四 狂言』(三一書房、昭50)に翻刻されているが、虎清の間狂言に関する伝書であり、また付録二『狂言印可勘状』とも重なるところが多いので、併せ翻刻することとした。『文化史料集成』の翻刻は間狂言の段第三項に「太夫をひさしくまたせぬやうに」の部分が脱落している。  本文書は寛永九年(一六三二)、大蔵弥右衛門虎清が六十七歳の時。次男八右衛門清虎(二十二歳)に相伝した伝書である。これ以前、寛永七・八年には虎清は長男虎明に『狂言印可勘状』(付録二)を相伝している。それも冒頭に「式三番神狂言間之物秘書」とあるので、同じ趣旨の文書と考えられ、内容的にも重なるところが多い。虎明は寛永十一年には家督を相続していたと見られるが、それより前、寛永七・八年には、この一子相伝の文書を受けている。虎明三十四歳・三十五歳である。『わらんべ草』の「自讃」には、三十二歳の年に「金春座の頭取」を虎清から受け取ったと記す。橋本朝生氏が疑われるように、『わらんべ草』における、このあたりの年齢に三歳程度の誤記があるとすると、寛永八年が頭取を受けた年に当たる。実質的に狂言大蔵流を代表する位置についたときに、この『狂言印可勘状』を受けたのだと考えることができる。清虎が八右衛門家を樹立したのは寛永十四年から十七年までの間と推察されているが、本文書によれば、虎清は虎明に頭取を渡してすぐ、寛永九年には次男清虎に対して宗家に準ずる扱いをしていたことになる。おそらく八右衛門が二十歳になる寛永七年頃には、いずれ八右衛門家を立てさせようとする意図があったのではなかろうか。「家の総領に代々相伝」する文書を「公の私を以て」清虎が相伝を受けたとする、序の文章がそれを示している。寛永九年に相伝した筈の本文書を、寛永十七年に再度相伝した形にしたのは、八右衛門家樹立がこの年になされ、その念押しだったと考えてよいだろう。  内容は大別して三段になる。その一は「式三番」の秘伝、十一項である。『狂言印可勘状』とは、この段に共通項が多い。六十六番の翁を式三番に「なおし」たのは「聖武天皇の御宇」とするのは、『風姿花伝』で「その後」とし、『わらんべ草』六段で「中頃」と表現していることの具体的説明である。その二は「狂言の始まり」とする一項である。はじめの玄恵法印伝説は『勘状』と共通だが、こちらの方が詳しい。『勘状』に見える「小児法師いさめ・気をいさめ」も「「諌め」ではなく「勇め」の意であることが、こちらで判明する。「狂言とはまことをくるうと書きたり」は『勘状』では別項となっている。その後は「中興観世の満五郎殿、金春四郎二郎殿」が作り添えたとする趣旨で、大蔵流の基本伝承と言えよう。「狂言一番の内に、をかしきことを五とか三とかいたすものなり」は『わらんべ草』六十六段に「一番の中に、狂言は、二所、三所、ならでは有べからず」とあるものと違う。同じ虎清の言葉の筈だが、『わらんべ草』の方には、時代に合わせた虎明の意図が入っているのであろう。その三は「間狂言」の秘伝、七項である。『間・風流伝書』で、各曲ごとに、くどいほど繰り返され、具体的に確認されるアシライアイ、語りアイの出方などが、「大事」であったことが、これによって知られる。最後に置かれた〈石橋〉の問題は『勘状』でも最後に置かれるが、『間・風流伝書』において詳細に説かれていることで、虎清にとって、語り継ぐべき大事件だったと言えるのだろう。  なお、本稿における年齢推定は、橋本朝生氏『続狂言の形成と展開』所収の「大蔵虎明上演年譜考」「大蔵清虎上演年譜考」の考証による。 索引 ①曲名 ②人名・神仏名 〔凡例〕 ○この索引は『大蔵虎清間・風流伝書』『しきさんばんあいきやうげん』『狂言印可勘状』『大蔵虎清狂言伝書』に現れる曲名・人名神仏名の索引である。 ○各項とも配列は現代仮名づかい(一部は発音)による五十音順とした。 ○同頁に同一語が重出していても、当該頁は一度のみ示した。 ○見出し語に続く〔 〕内の小字は補足や説明の注記である。 ①曲名 ○見出しの文字は本文中の形に従い、異表記は一括して掲出した。同曲の異名は別々に掲出し、→印を付して別掲の形を示した。 ②人名神仏名 ○同人の別称や異表記は原則として別々に掲出して、→印を付して別掲の形を示した。但し「~殿」の類は一括した。 ①曲名 あ~お あいじゆ・愛寿 10,90 あいそめがわ・愛染川 9,71 あふひの上・葵上 11,106 あくげんだ・悪源太 13,149,150,151 あこぎ・安濃 12,128 あさがほ・朝顔 11,105 あしかり・芦苅 9,74,75 あたか・安宅 10,98 あつた・熱田 8,50 あつもり・敦盛 8,53,54 あま・海士 13,140 あらしやま・嵐山 7,34 ありのふりう 15,25 あわぢ・淡路 7,39 いかりかづき 14,157 いけにへ・生贄 10,101 一かくせんにん・一角仙人 10,93 いづゝ・井筒 9,63,64 いわふね・岩舟 8,46 うかい・鵜飼 12,121,122 うきふね・浮舟 11,109 うげつ・雨月 11,104 うこん・右近 7,40 うつせみ・空蝉 9,80 うとふ・善知鳥 10,97 うねめ・采女 9,75,76 うのは・鵜羽 7,36 うのまつり・鵜祭 8,46 馬こいざゝき・馬乞佐ゝ木 9,79 むめがへ・梅がえ 11,111,113,116 うらしま・浦嶋 7,37 うんりんゐん・雲林院 12,133,134,135 ゑぐち・えぐち・江口 13,131,136 ゑのしま・江野島 8,43 ゑびら・箙 8,54,55 絵馬 41 ゑんま 7  →絵馬 おいまつ・老松 7,28 大やしろ・大社 8,44 おかざき・岡崎 13,149 おがの松のふりう 15,25 おきのいん・沖院 10,94 おしほ・小塩 13,139,140 おちば・落葉 11,116 おばすて・叔母捨 9,79 おはらごかう・大原御幸・大はらごかう 12,130,131 をみなへし・女良花・おみなへし 11,113,117 大蛇 168 か~こ 花月 9,70,72 かすい・河水 8,51 かすがりうじん・春日龍神 8,60,201 かたな・刀 13,147 かづらき・葛城 12,121 かづらきてんぐ・葛城天狗 13,153 かなわ・鉄輪 9,64 かねひら・兼平 8,52,53,70 かねもと・兼元 11,114 かふう 9  →項羽 かんたん・邯鄲 11,115 かんやうきう・感陽宮 10,99 きそのぐわんじゆ・木曽巻数 10,92 きよしげ・清重 10,89 きんさつ・金札 7,42,44 くさなぎ・草薙 8,49 くず・国栖 10,98,164 くせのと・九世戸 8,50 くまさか・熊坂 11,107,109 くらま・鞍馬 14,165 くらまてんぐ・鞍馬天狗 11,103 くるまぞう・車僧 13,138 くれは・呉羽 7,27 くろづか・黒塚 12,133 げんざいぬへ・現在鵺 13,151 けんじやう・絃上 14,160,168 げんじやう三蔵・玄奘三蔵 14,161  →大般若 げんたゆふ・源太夫 7,42 げんぶくそが・元服曽我 12,126 項羽 70 くわうてい・皇帝 8,48 がうま・降魔 13,141 こかぢ・小鍛冶 14,160 こかわぢ・粉川寺 14,161 こがう・小局 10,101 こそてそが・小袖曽我 9,78 こてう・蝴蝶・胡蝶 11,168,117 こもり 13,154 さ~そ さ井・犀 12,129 さいぎやうざくら・西行桜 11,114 さいのかみのはやし 24 さいのかみのふりう 15 鷺 168 さねかた・実方 14,162,163,164 さねもり・実盛 8,55,56 さほやま・佐保山 7,34 三番神のふりう 24,25 さんばさうのふりう・さんば三のふりう・三番三のふりう 16,17,18,20,21,22 三面のふりう 15,16 しが・志賀 7,34 しきさんばん・式三番 189,190,199 七きおち・七騎落 9,78,79 じどう・士童 8,132 じねんこじ・自然居士 9,72,73 しのぶ・信夫 14,163 しやつきよう・石橋 13,144,145,146,192,201 しやり・舎利 12,127 しゆてんどうじ・酒天童子 11,112 しゆんくわん・俊寛 12,130,131 しゆんぜいたゞのり・俊成忠則 10,83,85 しゆんゑい・春栄 9,76,77 せうき・鍾馗 9,69 しやうぞん・正尊 12,131 しやうれうちのふりう 15,19 しらひげ・白髮 7,29,43,45 すゝのだん・鈴之段 189,199 せいわうぼ・西王母 7,37 せいぐわんじ・誓願寺・せいぐわん寺 9,81,82,83,86 せがい・是害 11,107 せつしやうせき・殺生石 9,76 せつたい・接待 11,110 せみまる・蝉丸 10,88 千歳のふりう 19 千歳ふるのふりう・せんざいふるのふりう・千歳経るのふりう 16,23,24,25 ぜんじそが・禅師曽我 13,135 せんにんのふりう 15,22 そらばら・空腹 13,150 た~と 大ゑ・大会 12,127 大こくのふりう・だいこくのふりう 15,21 大はんにや・大般若 8,45  →げんじやう三蔵・玄奘三蔵  大ふつくやう・大仏供養 13,135 たいぼく・太木 12,129 だいろくてん・第六天 10,84 たへま・当麻 13,140,141 たかさご・高砂 7,27 たけのゆき・竹雪 10,85 たけふん・武文・たけぶん 10,97 たゝのり・忠則・たゞのり 8,54,55 橘一人のふりう 15 たつた・立田 12,123,124 たてを・楯尾 14,163 たなばた・七夕 13,153 たまかづら・玉葛・玉かづら 8,63 たましま川・玉嶋川・玉嶋河 13,154,155 たまのい・玉ノ井 7,39 たむら・田村 8,61,62 たんごものぐるい・丹後物狂 12,119,120 だんふう・壇風 10,92 ちくぶしま・竹生嶋 8,45 ちゝのぜうのふりう 15,21 調伏曽我 87 ちやうりやう・長郎 13,137 つちぐも・土蛛 13,143,150 つちぐるま・土車 13,143 つねまさ・経政 14,157 つるかめ・鶴亀 7,40 つるかめのふりう・つるかめふりう 15,16 つるのはやし・つるはやしのふりう 15,23 ていか・定家 9,66 てんこ・天鼓 9,77,80 とうゑい・藤永 9,73,74 とうがんこじ・東岸居士 11,110 だうしやうじ・道成寺・だうじやうじ 9,66~68 たうせん・唐船 13,155 とうばうさく・東方朔 7,30 とうぼく・東北 11,106 だうみやうじ・道明寺 7,41 とをる・融 12,134 とくさ・木賊 10,84 知章・ともあきら 53 ともなが・朝長 8,55,61 とりをい・鳥追舟 10,91,92 な~の なにわ・難波 7,32,42 なへ八はちの 218 なわすゞき・縄鈴木 10,94,95 にしきゞ・にし木ゞ・錦木 12,125 にしきど・錦戸・にしき戸 11,118,119 によいほうしゆ・によいほうしゆのふりう 15,24 にわとりだつた・庭鳥立田・にわ鳥だつた11,109,110,111 ぬゑ・鵺 9,75 ぬれぎぬ・湿衣 12,135,136 ねざめ・寝覚 8,47 のぐちはうぐわん・野口判官 13,154 のゝみや・野ゝ宮 12,125 のもり・野守 12,122 は~ほ はくらくてん・白楽天・白楽てん 7,33 はこざき・箱崎 7,38 はしとみゆふがほ・半蔀夕顔・はじとみ夕がほ 9,81 はしひめ・橋姫 8,62,63 はしべんけい・橋弁慶 11,103 ばせう・芭蕉・ばせを 9,63,64 はちのき・鉢木 10,100 はつゆき・初雪 9,80 はんぢよ・斑女 11,113 ひうん・飛雲 10,83,84 ひがき・檜垣 11,111 びしやもんのふりう 15,17 ひたちおび・常陸帯 12,132,133 ひつじ・未 13,151 ひばりやま・雲雀山 14,158 ひむろ・氷室 7,38 百まん・百万 9,65 ひろもと・広元 14,162 びわたちばなのふりう 15,18 藤 168 ふしきそが・伏木曽我・ふし木曽我 10,13,144,147,149 ふじたいこ・富士太鼓・ふじだいこ 11,104,105 ふじと・藤戸 13,141 ふしみ・伏見 8,49 ふなばし・船橋 12,121 ふなべんけい・船弁慶 10,96,97 ほうかぞう・放下僧 12,119 はうじやうがわ・放生川 7,36 ほとけのはら・仏原 10,86 ま~も まつかぜ・松風・まつ風 9,69 まつのを・松尾 8,48 まつむし・松虫・松むし 12,124,125 三いでら・三井寺 9,65 みいでらなきふどう・三井寺泣不動 12,120 みうり・身売 13,148 みちもり・通盛 8,54 みなせ・水無瀬 13,149 みもすそ 7,29 みわ・三輪・三わ 9,64,65 むつら・六浦 10,94 めかり・和布刈 8,47 もちづき・望月 12,123 もちのふりう 15,20 もとめづか・求塚 11,105 もみぢがり・紅葉狩 13,83,138 もりひさ・盛久・もり久 12,122,123 や~わ やしま・八嶋 8,61,62 やたてがも・矢立賀茂 7,31 やまうば・山姥 11,109,110 ゆうがほ・夕顔 11,105,106 ゆぎやうやなぎ・遊行柳・ゆぎやう柳 11,111,112 ゆきよりともおち・雪頼朝落 14,164 ゆみやわた・弓八幡 7,28,29,32,33 やうきひ・楊貴妃 9,69,70,71 ようちそが・夜打曽我 13,152 やうらう・養老 7,33 よこやま・横山・よこ山 10,95 よしの・吉野 7,29 よしのしづか・吉野静 12,125 よりまさ・頼政 8,62 よろぼうし・弱法師 10,95,96 らいでん 14,159 らしやうもん・羅生門 11,108 りんざう・輪蔵 8,51,116 ろうたいこ・ろうだいこ・篭太鼓 12,74,124 ろうやぶり・篭破 10,96 六代つぼね入・六代局入 10,102,103,104 ②人名・神仏名 あ~お あいじゆ 90,91 悪源太・悪源太よしひら 57,59,150 あこぎ 128 あつたの明神 42 あつもり 53 あべのやすなり 152 あみだ如来 140 あめの御門 75 いづみしきぶ 82 いせの三郎・伊勢の三郎 90,150 いたばし殿・いたばしどの 164 一条の院・一条院 137,160 一休和尚 166 一ぺん上人 82,111 いづみの小二良・いづみ 129 いづみの三郎どの 118  →三郎どの いとうの九郎介宗 135 岩井どの・いわいどの・いわひどの・いわ井どの 119 岩戸のくわんぜおん 111 牛若殿・うしわかどの 103,108 宇多の天皇 134 うつせみ 80 うつのみやのやさぶらう 88 梅津のなにがし 28 浦しまの明神・うら嶋の明神 37 江ぐちのちやう 136 ゑしんのそうづ 49 ゑんぎ第三のわうじ 89  →さかがみ  ゑんぎ第四のわうじ 89  →せみ丸  ゑんぎのせいしゆ・ゑんぎのみかど 38,45,47,88 おほいの御門 41 大江の定基 145 大かたどの 118 大蔵八右衛門〔清虎〕 192  →八右衛門尉殿 大蔵弥右衛門・大蔵弥右衛門尉・大蔵弥右衛門尉虎清 167,192,201,202,219 おがさわら 88 岡部の六弥太 83 おさだのしやうじ四郎たゞむね 57 おしほの明神 139,149 落葉の宮 116 小野の十郎高藤 164 おやまのはんぐわん 88 か~こ かうのぶ 41 かげきよ 136 かぢわらの源太・かぢわら  79,89,90 かぢわらふし 88 春日・春日大明神 34,49 かたなどの・刀殿・刀どの 147,148 兼平 92 かねもと殿 114 かまくらどの 88  →みなもとのよりとも かまたひやうへまさきよ 58 亀山のゐん 38 かもの明神 31 くわんぜおん 111 くわん世左近 136 観世ぜ阿み 68  →ぜ阿み くわんぜ太夫・くわんぜ太夫どの・観世之太夫 68,146,147,166 くわんぜのまん五良との 190  →万五郎 くわんぜ彦右衛門 147 かんのかうそ 137 かんぶてい・ぶてい 153 くわんむてんわう 42 ぎわう 87 菊地 163 木そどの・木曽殿 52,92 北野のてんじん・北野ゝ天神 28,116 ぎによ 87 きのつらゆき 29 ぎのぶんていわう 132 きやうのとの・きやうの殿 147,148 ぎやうけい 157 きよしげ・清重 90  →するがの二郎清重  きよみばらのてんわう 98 清盛・清盛公 57,87  →へいしやうこく  きんみつ 133 きんめいてんわう 43 くだう一らうすけつね 88 くまがへの二郎なをざね 53 熊坂のちやうはん・くまさかのちやうはん 107,108 くるまぞう 139 けいか 99 けいやうこくのみかど 151 げだつ上人 84 けたの明神 46 げんゑほうゐん・玄恵法印 190,200 源じ・げんじ〔光〕 80 げんじやう三蔵法師・玄奘 161  →三蔵法師  げんそうくわうてい 48 げんのう 76 げんぴんそうず 64 幸小左衛門 147 くわうせきこう 138 後宇多院・後宇多のゐん 28,82 幸の小左衛門尉・幸の小左衛門 145,146 かうの七郎みちひろ 82 こうばいどのゝしん 28 こかぢ宗近 160 ごかんの御門 77 ここう〔仙人の風流〕 22 こがうのつぼね・小がうのつぼね 101 小左衛門〔幸〕 145 こしきぶ 82 五太力菩薩 202 後鳥院・後鳥羽院 94,130 このゑのいん・こんゑのいん 152 五良〔曽我〕 78 五郎次郎〔幸〕 145 ごんげん様 146 金春ぜんちく 68  →ぜんちく 今春大夫・今春太夫・今春太夫どの 68,146,147,166 金春源七郎 68 金春四郎次郎殿・こんはる四良二良との・金春四良二郎殿・今春四郎二良殿・四良次良・四良二良との 68,190,191,199,201,202 さ~そ 西行法師・さいぎやうはうし・さいぎやう・西行 104,114,137,162 さいみやうじ殿・さいみやうじどの 73,100 左衞門〔花月〕 71 左右衞門尉尉女 95 左衞門尉尉道俊 95 酒井うたのかみどの 145 さかがみ 89  →ゑんぎ第三のわうじ  桜本の中納言 84 左近の丞・さこんの丞・左近丞 71,72,91 さゝきの三郎もりつなどの 141 さとうたゝのぶ・さ藤忠信 90,125 佐藤兵衛のりきよ 162  →西行法師 さねかたの卿 162 三郎どの 118 三蔵法師 45  →げんじやう三蔵法師・玄奘  ぢが与左衛門・じかよさゑもん・似我与左衛門 147,192,201 重盛 59 しづか 126 ぢねんこじ 72 しのぶの太郎・大良 164 しぶ屋こんわうまる 58 しやか如来 141 寂照法師 145 十郎〔曽我〕 78  →助成  しゆんくわん 130 しゆんぜいのきやう 83 しやうくう上人 137 しやうぐんさま 146 しやうむてんわう 75,190 しらひげの明神 29 次郎・二良〔篭破〕 96 二良・次郎〔信夫〕 164 しんぜい 58,59 しんぶやう 99 すけともの卿 92,93 助成 126  →十郎〔曽我〕  すみよしの明神 46 するが二郎清重 90  →きよしげ・清重  ぜ阿み・世阿み・ぜあみ 68,166 せいわうぼ 17 せいめい 64 せきの清次 124 せみ丸 89  →ゑんぎ第四のわうじ  ぜんゑ上人 82 せんだぶにん 93 ぜんちく 166 ぜんぽう〔金春〕 68 せんていによういん 158 千若 163 そけいくわんにん・くわんにん 156 そつのあじやり 92 そんじやう 41 だいこく 21 大神宮 29,41,84,128 大徳院様・上様 145 たいらのこれもち 138  →よごのしやうぐん 高倉の院・高倉院 87,101 高砂の明神 27 高橋のごんのかみ家佐 76 大じやう大じんもろながのきやう 160 たゞのぶ・たゞのぶどの 90,91,126,150  →さとうたゞのぶ たゞのり 54 たちばなのみちさだ 82 橘のみちなりのきやう 160 たてをの何がし・たてを 163 為世の卿 149 太郎・太良〔篭破〕 96 太良房 139 たんばのしやうしやうなりつね 130 竹生嶋 45 ちゝぶのしやうじしげたゞ 88 長良 137 つがるの太良時則 163 月若・月わか 85,86 次信 110 つくばの何がし 40 土屋殿 122 つねよ 100 てんじん 19 天女 43 土井の大ゝいどの 145 藤永どの・とうゑい・とうゑいどの 73 藤左衞門 163 とがせの何がし・とがせ・とがせどの 98,99 とぢ 87 とし成 54 とねののぶとし 119 鳥羽の院・とばのいん・鳥羽院 137,152,162 ともあきら 53 ともなが・とも長・朝長 55~58 とも長のめのとの何がし・とも長の御めのとの何がしどの・朝長の御めのとのなにがし 55~57 とももり 158 とらごぜん 144 虎時〔虎明〕 202 とをるこう 134 な~の なをいのさへもん 85 長井しなのどの 145 中国〔小督〕 101 なすの与市 61 なるわうどの 73 なんばの次郎つねとを 150 にいのあま 158 にわうだん三郎 135 にしきどの太郎・にしきどの太良 118 ねざめのとこの翁 47 のきばのおぎ・下おぎ 80 のぶとし 120 のぶより・信賴公・信賴 58,59 は~ほ はいたい天皇 140 はくがのさんみ 89 はくらくてん 33 はこわう 87 箱崎殿・はこざきどの 155,156 箱崎の神 156 八右衛門尉殿・八右衛門殿 167,219  →大蔵八右衛門 八幡 28,36 花松どの 119 花若殿 114 はやともの明神 47 はんじよ 113 ひうん 83 日ぐらしどの 91 ひこほゝでみの御子 39 びしやもん 17,18 ひちやうばう 22,23 人丸 75 兵衛 164  →まつがさきの兵衛・松が崎兵衛  平岡殿 109 ふかくさのせうせう・せうせう 143 ふくべのしん・ふくべの神 117 ふげんぼさつ 137 ふさゞきの大じんどの 140 ふし見の翁 43 ふじ原のとし家・藤原のとしいゑ 34,49 ぶつぼさつ 137 へいしやうこく 130  →清盛・清盛公  へいはんぐわんやすより入道 130 弁慶・べんけい 99  →むさし房弁慶 はうぐわん殿 90 はうじ 69 ほうでうの四郎ときまさ 102 はうそ 22 ほつしやうぼうのりつしそうじやう 159 ほとけごぜん 87 ほんまどの・ほんま 92,93 ま~も 松が崎兵衛・まつがさきの兵衛 164  →兵衛  松尾の明神 48 まつらどの 97 松浦の何がし 124 万五郎・まん五良との 68,190  →くわんぜのまん五良との みくまのゝごんげん 83 みなもとのよりとも 135  →頼朝 源のよりまさ 151 みなもとのらいくわう 144  →らいくわう みぶのたゞみね 38 みやうゑ上人・みやうへ上人 60 明神 109 むさし房弁慶・武差房弁慶 96,110,131  →弁慶 陸奥丞のなにがし 79 宗盛公・宗盛 59 村上のてんわう 162 むろのそうじやう 107 むろの明神 31 望月のあき長・あき長殿 123 盛久・もり久 122 や~わ 安原の豊後守・ぶんごのかみ 162,163 弥太郎・弥太郎殿〔大蔵〕 145,202  →虎時〔虎明〕 弥平兵衛宗清 58 山のかみ・山の神 34 山姥 109 夕ぎり・ゆふぎり 80 遊行十四代の上人 55 よがわのこひぢり 106 よがわのそうず 106 よごのしやうぐん 138  →たいらのこれもち 横萩の右大臣豊成 158 よこやまどの 96 吉田の少将どの 113 よしとも 57,58,59,108 頼朝・よりとも 58,88,94,129  →みなもとのよりとも らいくわう・らいくはう 108,112  →みなもとのらいくわう りきじゆ 90,91 りゆうけい 133 龍女 51 れんしやう法師 53 六代つぼね 102 ろせい 115 六かくどの・六つかくとの 146,192 わしのすのげんくわう・げんくわう 58 渡辺のつな 108 和田の小太郎 78 わだのさへもん 88 大とうない 152 二〇一五年三月三十一日 発行 法政大学能楽研究所編 能楽資料叢書 1 大蔵虎清間・風流伝書 校  訂  田 口 和 夫 発  行  野上記念 法政大学能楽研究所 共同利用・共同研究拠点 「能楽の国際・学際的研究拠点」 〒一〇二―八一六〇 東京都千代田区富士見二―一七―一 電話 〇三―三二六四―九八一五 印 刷 所  三和印刷株式会社 〒三八一―二二二六 長野市川中島町今井一八二二―一